事件番号等
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平成30年(ネ)第10023号 著作権侵害差止等求,損害賠償反訴請求控訴事件
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裁判年月日
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平成30年8月23日
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担当裁判所
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知的財産高等裁判所(3部)
(原審:東京地方裁判所平成28年(ワ)第37339号)
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権利種別
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著作権(映画の著作物「沖国大ヘリ墜落事故」)
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訴訟類型
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民事訴訟
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結果
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本訴:控訴棄却
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主文
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- 本件控訴を棄却する。
- 控訴費用は控訴人の負担とする。
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趣旨
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- 原判決中,本訴請求に関する控訴人敗訴部分を取り消す。
- 被控訴人の上記取消しに係る部分の請求を棄却する。
- 原判決中,反訴請求に関する部分を取り消す。
- 被控訴人は,控訴人に対し,1950万円及びこれに対する平成28年4月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
- 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
- 第4項につき仮執行宣言
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争点
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(1) 差止請求等の特定について(争点1関係)
(2) 著作者名の表示について(争点3関係)
(3) 引用の抗弁について(争点4関係)
(4) 権利濫用について(争点5関係)
(5) 行為①ないし④の違法性について(争点8関係)
(6) 本訴提起に関する報道内容の違法性について(争点9関係)
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裁判所の判断
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当裁判所も,本訴請求については,原判決が認容した限度で認容し,その余をいずれも棄却し,反訴請求については,その請求を全部棄却するのが相当であると判断する。
- 以上のとおり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
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キーワード
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上映権/氏名表示権/使用許諾/引用の抗弁/フェア・ユース/権利濫用/独占禁止法2条9項1号/独占禁止法2条9項6号
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実務上役立つと思われる点を、以下の通り判決文より抜粋する。
控訴人は,
①「公正な慣行」の立証責任を利用者の側に負わせるべきではない,
②本件における引用の抗弁の成否に関しては,被控訴人が本件各映像の利用を許諾しなかった理由(不許諾理由)こそが考慮されてしかるべきである,
③エンドクレジットへの掲載は賛辞を意味するという「公正な慣行」が存在するため,控訴人としては,許諾申請が拒否された以上,被控訴人の許諾があったかのような記載を避ける必要があった,
④そもそも出所を明示していないことを理由に引用の抗弁を退けること自体が誤りである,などと主張する。
しかしながら,次のとおり,上記各主張はいずれも採用できない。
上記①について,著作権法32条1項は,飽くまで著作権行使の制限規定である以上,その適用については,基本的に適用を主張する側が要件充足の主張立証責任を負うものと解するのが相当である。
上記②について,著作権法32条1項は著作権の制限規定であって,これによって認められる引用はそもそも著作権者の許諾がなくとも適法とされるのであるから,適法引用に当たるかどうかを判断するのに当たって,権利者が著作物の利用を許諾したかどうかや,許諾しなかった場合のその理由が考慮の対象になる余地はないというべきである。
上記③について,原判決が指摘しているのは,エンドクレジットにすら映像の著作権者を表示しないことが公正な慣行として承認されているとは認められない,ということであって,原判決は,エンドクレジットに被控訴人の名称を表示すれば直ちに適法引用として認められる,とするものではない。そこで問われているのは,飽くまで出所明示の要否であって,エンドクレジットに被控訴人の名称を記載しなかった理由それ自体が問題にされているわけではない(仮に控訴人が主張する「公正な慣行」が存在したとしても,本件使用部分において被控訴人の名称を表示することができなくなるわけではない。)から,控訴人の主張は失当である。
上記④について,著作権法32条1項が規定する適法引用の要件として常に出所明示が必要かどうかという点はともかくとしても,少なくとも本件においては(適法引用の要件として)出所明示がなされるべきであったと認められることは,前記アのとおりである。
判決文