事件番号等
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平成28年(行ケ)第10278号 審決取消請求事件
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裁判年月日
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平成30年1月15日
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担当裁判所
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知的財産高等裁判所(第4部)
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権利種別
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特許権(「ピタバスタチンカルシウムの新規な結晶質形態」)
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訴訟類型
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行政訴訟(特許取消決定)
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結果
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決定一部取消
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趣旨
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- 特許庁が異議2015-700094号事件について平成28年11月18日にした決定のうち,特許第5702494号の請求項1ないし7,9ないし13に係る部分を取り消す。
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取消事由
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(1) 本件補正が新規事項の追加に当たるとした判断の誤り(取消事由1)
(2) サポート要件の判断の誤り(取消事由2)
(3) 実施可能要件の判断の誤り(取消事由3)
(4) 引用発明1又は1’に基づく新規性の判断の誤り(取消事由4)
(5) 引用発明2又は2’に基づく進歩性の判断の誤り(取消事由5)
(6) 引用発明3に基づく進歩性の判断の誤り(取消事由6)
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裁判所の判断
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- 以上のとおり,本件出願時の特許請求の範囲【請求項1】に,構成要件Eを追加する本件補正は,新たな技術的事項を導入するものではない。そして,本件補正のその余の部分について,被告は,新たな技術的事項を導入するものではなく,本件出願当初明細書等に記載した範囲内においてしたものであることを争わない。したがって,本件補正は,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たす。よって,取消事由1は理由がある。
- 以上によれば,本件発明1は,本件明細書に記載された発明で,本件明細書の記載及び技術常識に照らし,本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから,本件発明1の特許請求の範囲の記載は,サポート要件に適合するものである。そして,本件発明2ないし7,9ないし13の特許請求の範囲のうち,本件発明1の特許請求の範囲で特定される部分を除く発明特定事項の記載について,被告は,サポート要件に適合することを争わない。したがって,本件各発明の特許請求の範囲の記載は,サポート要件に適合する。よって,取消事由2は理由がある。
- 以上によれば,本件発明1に係る本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているものであるから,実施可能要件を満たす。そして,本件発明2ないし7,9ないし13の特許請求の範囲のうち,本件発明1の特許請求の範囲で特定される部分を除く発明特定事項に係る本件明細書の発明の詳細な説明の記載について,被告は,実施可能要件に適合することを争わない。したがって,本件各発明に係る本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件に適合する。よって,取消事由3は理由がある。
- 以上のとおり,本件発明1,3,5,7及び10ないし13は,いずれも引用発明2又は2’及び技術常識に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものである。よって,取消事由5は理由がない。
- 以上検討したとおり,取消事由1ないし3はいずれも理由があり,取消事由5は理由がないから,取消事由4及び6を検討するまでもなく,本件決定のうち,請求項1,3,5,7及び10ないし13に係る本件特許を取り消した部分に誤りはなく,請求項2,4,6及び9に係る本件特許を取り消した部分は誤りである。
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キーワード
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新規性/進歩性(相違点の判断)/特許請求の範囲の記載要件(サポート要件)/明細書の記載要件(実施可能要件)/補正・訂正の許否(新規事項の追加)/分割出願
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実務上役立つと思われる点を、以下の通り判決文より抜粋する。
2 取消事由1(本件補正が新規事項の追加に当たるとした判断の誤り)について
(1) 明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をするときは,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならないところ(特許法17条の2第3項),補正が,当業者によって,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものということができる。
実務上役立つと思われる点を、以下の通り判決文より抜粋する。
3 取消事由2(サポート要件の判断の誤り)について
(1) 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
実務上役立つと思われる点を、以下の通り判決文より抜粋する。
4 取消事由3(実施可能要件の判断の誤り)について
(1) 物の発明について実施可能要件を充足するためには,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が,明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識とに基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,その物を製造し,使用することができる程度の記載があることを要する。
実務上役立つと思われる点を、以下の通り判決文より抜粋する。
5 取消事由5(引用発明2又は2’に基づく進歩性の判断の誤り)について
(1) 引用例2の公知性(分割要件の充足の有無)について
ア 分割出願が適法であるための実体的要件としては,①もとの出願の明細書,特許請求の範囲の記載又は図面に二以上の発明が包含されていたこと,②新たな出願に係る発明はもとの出願の明細書,特許請求の範囲の記載又は図面に記載された発明の一部であること,③新たな出願に係る発明は,もとの出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内であることを要する。なお,本件出願が第1出願の出願時にしたものとみなされるためには,本件出願,第3出願及び第2出願が,それぞれ,もとの出願との関係で,上記分割の要件①ないし③を満たさなければならない。
(中略)
カ 小括
以上によれば,本件発明1は,第3出願当初明細書等に記載された事項の範囲内であるということはできず,前記分割の要件③を満たさない。したがって,本件発明1に係る本件出願は,第3出願の一部を新たに特許出願とするものではないから,その出願日は平成26年7月30日となる。
したがって,引用例2は,本件出願の出願日前に頒布された刊行物である。原告は,引用発明2及び2’に基づく進歩性欠如について具体的に取消事由を主張しないが,念のため,以下において検討する。
判決文