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知財裁判例速報

平成28年(行ケ)第10037号審決取消請求事件:重合性化合物含有液晶組成物及びそれを使用した液晶表示素子

  • 2017/06/20
  • 知財裁判例速報

事件番号等

平成28年(行ケ)第10037号 審決取消請求事件

裁判年月日

平成29年6月14日

担当裁判所

知的財産高等裁判所(第3部)

権利種別

特許権(「重合性化合物含有液晶組成物及びそれを使用した液晶表示素子」)

訴訟類型

行政訴訟(無効・成立)

結果

審決取消

趣旨

特許庁が無効2014-800103号事件について平成27年12月28日にした審決のうち,「特許第5196073号の請求項1ないし17に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。

取消事由

原告は,特許法29条1項3号に係る認定判断の誤りを主張する。具体的には,引用発明の認定,一致点の認定,特許性の有無に関する相違点の評価とそれに関する法令解釈をそれぞれ争っている(なお,原告は,当初,一致点の認定,特許性の有無に関する相違点の評価とそれに関する法令解釈の誤り〔取消事由1~3〕のみを主張しており,引用発明の認定を争うか否かについては態度を明確にしていなかったが,後に「取消事由A」として引用発明の認定についても争うことを明らかにした)。

裁判所の判断

  • 本件審決は,必要な検討を欠いたまま本件発明1の特許性を否定しているものであるから,上記の個別的検討の当否について判断するまでもなく,審理不尽の誹りを免れないのであって,本件発明1の特許性の判断において結論に影響を及ぼすおそれのある重大な誤りを含むものというべきである。したがって,本件発明1の特許性に関する本件審決の判断は妥当でない。
  • 上記のとおり,本件審決は,本件発明1の特許性の判断において結論に影響を及ぼすおそれのある重大な誤りを含むものである。そうである以上,本件発明1を更に限定する本件発明2ないし17についても,それらの特許性の判断において結論に影響を及ぼすおそれのある重大な誤りを含むものであることが明らかというべきである。したがって,本件発明2ないし17の特許性に関する本件審決の判断も妥当でない。
  • 以上の次第であるから,取消事由3は理由があるというべきであり,その余の取消事由について判断するまでもなく,本件審決(ただし,本件訂正を認めた部分を除く。)は全部取り消すのが相当である。

キーワード

新規性(相違点の判断,選択発明の特許性)



実務上役立つと思われる点を、以下の通り判決文より抜粋する。

  エ 以上によれば,本件審決は,
① 甲1発明Aの「第三成分」として,甲1の「式(3-3-1)」及び「式(3-4-1)」で表される重合性化合物を選択すること,
② 甲1発明Aの「第一成分」として,甲1の「式(1-3-1)」及び「式(1-6-1)」で表される化合物を選択すること,
③ 甲1発明Aの「第二成分」として,甲1の「式(2-1-1)」で表される化合物を選択すること,
④ 甲1発明Aにおいて,「塩素原子で置換された液晶化合物を含有しない」態様を選択すること,
の各技術的意義について,上記①の選択と,同②及び③の選択と,同④の選択とをそれぞれ別個に検討した上,それぞれについて,格別な技術的意義が存するものとは認められないとして,相違点1ないし4を実質的な相違点であるとはいえないと判断し,本件発明1の特許性(新規性)を否定したものといえる。

(3) 本件審決の判断の妥当性
本件発明1は,甲1発明Aにおいて,3種類の化合物に係る前記①ないし③の選択及び「塩素原子で置換された液晶化合物」の有無に係る前記④の選択がなされたものというべきであるところ,証拠(甲42)及び弁論の全趣旨によれば,液晶組成物について,いくつかの分子を混ぜ合わせること(ブレンド技術)により,1種類の分子では出せないような特性を生み出すことができることは,本件優先日の時点で当業者の技術常識であったと認められるから,前記①ないし④の選択についても,選択された化合物を混合することが予定されている以上,本件発明の目的との関係において,相互に関連するものと認めるのが相当である。
そして,本件発明1は,これらの選択を併せて行うこと,すなわち,これらの選択を組み合わせることによって,広い温度範囲において析出することなく,高速応答に対応した低い粘度であり,焼き付き等の表示不良を生じない重合性化合物含有液晶組成物を提供するという本件発明の課題を解決するものであり,正にこの点において技術的意義があるとするものであるから,本件発明1の特許性を判断するに当たっても,本件発明1の技術的意義,すなわち,甲1発明Aにおいて,前記①ないし④の選択を併せて行った際に奏される効果等から認定される技術的意義を具体的に検討する必要があるというべきである。
ところが,本件審決は,前記のとおり,前記①の選択と,同②及び③の選択と,同④の選択とをそれぞれ別個に検討しているのみであり,これらの選択を併せて行った際に奏される効果等について何ら検討していない。このような個別的な検討を行うのみでは,本件発明1の技術的意義を正しく検討したとはいえず,かかる検討結果に基づいて本件発明1の特許性を判断することはできないというべきである。
以上のとおり,本件審決は,必要な検討を欠いたまま本件発明1の特許性を否定しているものであるから,上記の個別的検討の当否について判断するまでもなく,審理不尽の誹りを免れないのであって,本件発明1の特許性の判断において結論に影響を及ぼすおそれのある重大な誤りを含むものというべきである。
したがって,本件発明1の特許性に関する本件審決の判断は妥当でない。

(4) 被告の主張について
被告は,本件審決と同様に,本件明細書の記載を検討しても相違点1ないし4に格別な技術的意義があるとはいえず,本件発明1と甲1発明Aは実質的に同じ技術的思想を有する発明であると主張する。
しかし,各相違点(相違点1,同2及び3,同4)をそれぞれ個別に検討するのみで各相違点に係る選択を併せて行った際に奏される効果等について何ら検討するものでない点は,やはり本件審決と同じであるから,被告の主張は,その余の点について検討するまでもなく,採用できないというべきである。

 

判決文