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マーカッシュ形式のクレームを作成する際の留意点1

  • 2017/05/29
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 マーカッシュ形式クレーム(以下、マーカッシュクレームといいます)とは、請求の範囲の記載において、択一的記載を含む請求項全般を意味し、一般的には、化合物の分野において、上位概念で表現し得ない場合に、複数の化合物を択一的に記載して、1つにまとめられた請求項を意味します。

 記載の具体例としては、次のように記載されます。

例1
「…A,B,C及びDからなる群より選ばれる〇〇…」
例2
「…置換基Rは、A,B,C又はDを表す」

 マーカッシュクレームでは、発明の単一性が問題となる場合があります。

 発明の単一性とは、2以上の発明について、一の願書で特許出願をする場合の要件のことで、技術的な特徴が共通している必要があります。

 これは、択一的な表現であるマーカッシュクレームにおいても例外ではなく、選択肢ごとに発明の単一性の要件を満たす必要があります。
 具体的には、以下の要件を満たすことで、各選択肢は共通した技術的特徴(同一の又は対応する特別な技術的特徴といいます)を有し、発明の単一性の要件を満たすとされています。

  1. すべての選択肢が共通の性質又は活性を有している。
  2. (a)共通の化学構造が存在する、すなわちすべての選択肢が重要な化学構造要素を共有している、又は、(b)共通の化学構造が判断基準にならない場合、すべての選択肢が、その発明が属する技術分野において一群のものとして認識される化学物質群に属する。

 なお、「一群のものとして認識される化学物質群」とは、少し難しい表現ですが、その化学物質群に属する各化学物質を互いに入れ換えても同等の結果が得られる、ということに言い換えることができます。

 特許請求の範囲の記載には、一定の要件が要求されます(これを特許請求の範囲の記載要件と言います)。特許請求の範囲の記載要件としては、サポート要件,明確性要件,簡潔性要件,特許請求の記載に関する委任省令要件が挙げられます。


・サポート要件

 特許請求の範囲に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されている必要があります。これをサポート要件といいます。

 サポート要件について問題になりやすいケースを例示すると、複数の選択肢が記載されたマーカッシュクレームであるにもかかわらず、発明の詳細な説明には、選択肢に含まれる一部の選択肢についての実施の形態のみが記載されているケースが挙げられます。
 このケースでは、具体的に挙げられた一部の選択肢についての実施形態については問題とはなりませんが、他の選択肢についての実施形態については記載されていませんので、サポート要件違反となる可能性があります。

 なお、特許庁の審査によって、クレームに記載された選択肢の一部が発明の詳細な説明に記載されていないと判断されると、その記載されていないと判断された選択肢を削除する補正を行う必要があります。


・明確性要件

 明確性要件とは、特許請求の範囲の記載について、発明が明確に把握できないものは拒絶の対象とすることを法律上、明文化した規定です。
 明確性要件が要求される理由としては、請求項の記載から、特許を受けようとする発明が明確に把握できない場合には、新規性進歩性等の特許性の判断の対象である発明を認定できませんし、また、権利化後においても、発明が不明瞭では、権利書としての使命を適切に果たせないという点が挙げられます。

 マーカッシュクレームにおいては、選択肢どうしが類似の性質又は機能を有しないことで、発明が不明確であると認定されることがあります。
 特に、化学物質に関する発明である場合、発明が明確であると認定されるためには、以下の要件を満たす必要があると言われています。

  1. すべての選択肢が共通の性質又は活性を有している。
  2. (a)共通の化学構造が存在する、すなわちすべての選択肢が重要な化学構造要素を共有している、又は、(b)共通の化学構造が判断基準にならない場合、すべての選択肢が、その発明が属する技術分野において一群のものとして認識される化学物質群に属する。

 なお、マーカッシュクレームにおける明確性要件と単一性の要件は、基本的に同じですが、必ずしも、両方の拒絶理由が通知されるわけでは無いようです。特許庁によると、どのような拒絶理由を通知するかは個々の事例を審査基準に当てはめて判断する、とのことです。


・簡潔性要件

 簡潔性要件とは、請求項の記載は簡潔でなければならないことを明文化した規定です。発明の概念についての簡潔性を問題とするものではありません。

 特許請求の範囲の記載は、特許発明の技術的範囲を明示する権利書としての使命を担保するものですので、第三者にとって理解しやすいような簡潔な記載とすることが適切です。簡潔性要件は、この点から規定されています。

 マーカッシュクレームにおいて、簡潔性要件が問題となるケースとしては、例えば、マーカッシュ形式で記載された化学物質の発明において、選択肢の数が大量である結果、請求項の記載の簡潔性が著しく損なわれているとき、が挙げられます。

 マーカッシュクレームにおいて、請求項の記載の簡潔性が著しく損なわれているか否かを判断するに際しては、以下の点に留意します。

  1. 選択肢同士が重要な化学構造要素を共有しない場合には、重要な化学構造要素を共有する場合よりも、より少ない選択肢の数で選択肢が大量とされる。
  2. 選択肢の表現形式が条件付き選択形式のような複雑なものである場合には、そうでない場合よりも少ない選択肢の数で選択肢が大量とされる。