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知財裁判例速報

平成28年(行コ)第10002号 手続却下処分取消請求控訴事件

  • 2017/03/15
  • 知財裁判例速報

事件番号等

平成28年(行コ)第10002号 手続却下処分取消請求控訴事件

裁判年月日

平成29年3月7日

担当裁判所

知的財産高等裁判所(第2部)
(原審・東京地方裁判所平成27年(行ウ)第615号)

権利種別

特許権(「「フラッシュ様式での光の不連続な供給がある場合の混合栄養単細胞藻類の培養方法」)

訴訟類型

行政訴訟

結果

請求棄却

趣旨

1 原判決を取り消す。

2 特許庁長官が平成25年12月17日付けで控訴人に対してした特願2013-539308号についての国内書面に係る手続の却下処分を取り消す。

3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

争点

控訴人が国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったことについて,法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるか。

裁判所の判断

・当裁判所も,控訴人が国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったことについて,法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるということはできず,本件処分に違法はないから,控訴人の請求は棄却すべきものと判断する。

キーワード

国内書面/特許法184条の4第4項所定の「正当な理由」(人為的ミス)


法184条の4第4項における「正当な理由」の意義について

実務上役立つと思われる点を、以下の通り判決文より抜粋する。

 

  我が国では,外国語特許出願の出願人は,従前,国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出しなかった場合には救済されなかったところ,平成23年改正法は,明細書等翻訳文を提出することができなかったことについて「正当な理由」があるときは,一定の期間内に限り,これを救済するために新設されたものである。これは,PLTにおいて手続期間の経過によって出願又は特許に関する権利の喪失を引き起こした場合の「権利の回復」に関する規定が設けられ,加盟国に対して救済を認める要件として「Due Care」(相当な注意)又は「Unintentional」(故意ではない)のいずれかを選択することを認めており(PLT12条),同規定に沿った諸外国の立法例として,例えば,欧州においては,「Due Care」(相当な注意)基準を採用し,相当な注意を払っていたにもかかわらず期間の不遵守が生じた場合に救済が認められる運用がされていることなどを踏まえ,当時,我が国はPLTに未加盟であったものの,国際的調和の観点から,外国語特許出願の出願人について,期限の徒過があった場合でも,柔軟な救済を図ることにしたものと解される。
 もっとも,法184条の4第4項所定の「正当な理由」の意義を解するに当たっては,①特許協力条約に基づく国際出願の制度は,国内書面提出期間以内に翻訳文を提出することによって,我が国において,当該外国語特許出願が国際出願日にされた特許出願とみなされるというものであるから,同制度を利用しようとする外国語特許出願の出願人には,自己責任の下で,国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することが求められること,②国内書面提出期間経過後も,当該外国語特許出願が取り下げられたものとみなされたか否かについて,第三者に監視負担を負わせることを考慮する必要がある。
 そうすると,法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるときとは,特段の事情のない限り,国際特許出願を行う出願人(代理人を含む。以下同じ。)として,相当な注意を尽くしていたにもかかわらず,客観的にみて国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったときをいうものと解するのが相当である。




法184条の4第4項における「正当な理由」と判断され得る特段の事情の有無について

実務上役立つと思われる点を、以下の通り判決文より抜粋する。

 

  (1) 相当な注意
 ア 国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出しなければ,外国語特許出願は国際出願日にされた特許出願とはみなされないのであるから,国際特許出願の対象となる国及び広域の移行期限を確認することは,当該国際特許出願を行う出願人に当然に求められるというべきであるところ,控訴人は,現地事務所は,移行期限を徒過しないよう十分な体制を構築していたと主張する。
 イ 前記認定のとおり(引用に係る 本件出願の処理に当たり,現地事務所では,補助者であるA氏が,依頼人が移行手続を指示した国及び広域について,締切リスト(甲14)及びWIPOの期限表(甲13)を用いて,移行期限が30か月であるかあるいは31か月であるかを確認した上で,移行期限が30か月である国について指示書を作成したものである。
 しかし,前記認定のとおり(引用に係る ),締切リストには,対象となる国又は広域の移行期限が30か月であるか31か月であるかについて区別して記載されていない。また,前記認定のとおり(引用に係るカ),WIPOの期限表は,アルファベット順に行ごとに国名ないし広域名が記載され,その国名等の右側の離れた位置に移行期限が「30」あるいは「31」などの数字で記載されているものであるから,同期限表を目視するときは「30」ないし「31」という移行期限の表記が縦方向に混在して記載されているように見えるものである。
 そうすると,本件出願の処理に当たり,補助者であるA氏が,締切リスト及びWIPOの期限表を用いて移行期限を確認するだけでは,同人が特許管理業務に豊富な経験を有していたことを考慮しても,移行期限を看過するという人的ミスが生じ得ることは当然に想定されるものであったというべきである。
 ウ そして,前記認定(引用に係る現地事務所において,管理者は,補助者が起案した指示書が適切に作成されているか否かについて,本件システム上のリストを用いてチェックしたことは認められるものの,それがどのような内容のリストであるか,また,いかなる事項についてチェックしたものかについては明らかではない。これを,管理者が,締切リストを用いて移行期限をチェックしたものと解したとしても,前記のとおり,締切リストには,対象となる国又は広域の移行期限が30か月であるか31か月であるかについて区別して記載されておらず,C氏作成に係る陳述書(甲50)によっても,本件において,管理者が移行期限について,締切リストのほかに,どのような資料を用いて確認したかについては明らかではないから,管理者が,移行指示を受けた国及び広域の移行期限を確認したものということはできない。なお,同陳述書において,管理者は「専門的データベース」を用いて指示書等を確認した旨記載があるものの,「専門的データベース」の具体的内容は明らかではなく,これが移行期限を確認するに当たり,有用なものであると認めるに足りる証拠はない。
 また,平成25年3月12日付けメール(甲34)によれば,B氏が,イスラエル,米国,カナダについて指示書の書状及び付属書類の確認をしたことは認められるものの,その際,B氏が,各国の移行期限の確認作業を行ったとまでは認められない。C氏作成に係る宣誓書(甲9の1)及び陳述書(甲12)によっても,管理者による確認作業が,いかなる事項を対象に,どのような資料をもとに行われたかについては明らかではない。その他,本件において,管理者が移行期限の確認作業を行ったとの事実を認めるに足りる証拠はない。
 したがって,本件出願の処理に当たり,現地事務所が,管理者をして,移行指示を受けた国及び広域の移行期限の再確認作業を行ったとの事実を認めることはできない。また,現地事務所において管理者が移行期限の確認作業を行う体制が構築されていたとの事実も認められない。
 エ このように,本件出願の処理において,移行期限を看過するという補助者による人的ミスが生じ得ることは当然に想定されるところ,管理者などが,移行期限の再確認作業を行ったとの事実も,現地事務所において移行期限の再確認作業を行う体制が構築されていたとの事実も認められない。よって,現地事務所が,本件出願の処理に当たり,移行期限を徒過しないよう相当な注意を尽くしていたということはできない。
 (2) 控訴人の主張について
控訴人は,本件は,特殊例外的な事情により偶発的に過誤が発生したものであると主張する。
 しかし,本件において,補助者であるA氏のみが,締切リスト及びWIPOの期限表を用いて移行期限の確認作業を行った場合,人的ミスが生じ得ることは当然に想定されるものである。
 したがって,本件事務所において指示書作成のための実質的な期間が短く,平成25年3月12日は悪天候の影響から欠勤者がおり,B氏が多忙であって,さらに同人が妊娠しており体調が優れなかったことから,移行期限の再確認作業が行われなかったとしても,これをもって,国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったことについて特段の事情があったということはできない。



 

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