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知財裁判例速報

平成28年(行ケ)第10039号 審決取消請求事件

  • 2017/03/07
  • 知財裁判例速報

事件番号等

平成28年(行ケ)第10039号 審決取消請求事件

裁判年月日

平成29年2月23日

担当裁判所

知的財産高等裁判所(第2部)

権利種別

特許権(「医療用複室容器」)

訴訟類型

行政訴訟:審決(無効・成立)

結果

請求棄却

趣旨

特許庁が無効2014-800166号事件について平成28年1月5日にした審決中,「特許第5512586号の請求項1ないし2に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。

取消事由

1 取消事由1(引用発明としての適格性がないこと)

2 取消事由2(引用発明と周知技術を組み合わせる動機付けの不存在)

3 取消事由3(周知技術の認定の誤り)

4 取消事由4(引用発明と周知技術との組合せに対する阻害要因)

5 取消事由5(容易想到性に関する判断の誤り)

裁判所の判断

原告主張の取消事由にはいずれも理由がなく,原告の請求には理由がないから,これを棄却する。

キーワード

進歩性(相違点の判断)/引用発明の適格性


引用発明の適格性について

実務上役立つと思われる点を、以下の通り判決文より抜粋する。

 

  原告は,引用文献には,本件明細書に記載された,「連通阻害用弱シール部を設けることにより形成される空間内を確実に滅菌できる医療用複室容器を提供する」という課題が記載されていないから,引用発明は,引用発明としての適格性がない,と主張する。
 しかし,引用発明は,上記のとおり,本件発明と,技術分野を共通にし,かつ,相当程度その構成を共通にするから,引用文献に本件発明の課題の記載がなくとも,本件発明の技術分野における当業者が,技術的思想の創作の過程において当然に検討対象とするものであるといえる。当該課題が引用文献に明示的に記載されていないことを理由として,引用文献に記載された発明の引用発明としての適格性を否定することはできない。



 

  原告は,甲8の2には引用文献が引用されているが,引用文献には甲8の2が引用されていないことを理由に,引用文献を出発点として,本件発明の構成を想到しようとしても,引用文献から甲8の2にアクセスすることができない,と主張する。
 しかし,引用文献と甲8の2は,共に,本件優先日前の刊行物であり,用時混合して使用する複数の薬剤を収容した医療用容器に関する発明が記載されたものであるから,当業者であれば,本件優先日当時における技術的思想の創作に際し,引用文献及び甲8の2を共に参照することが可能であったと解され,このことは,一方の文献に他方の文献が引用されているか否かにより左右されない。



周知技術の組み合わせによる動機付けについて

実務上役立つと思われる点を、以下の通り判決文より抜粋する。

 

  これに対して,原告は,甲8の2は,「本件空間部には全く水分がないため,高圧蒸気滅菌を行ってもこの空間内及び注排口内部は滅菌することができない。」という引用発明の課題を解決しているから,甲8の2から引用発明に周知技術を組み合わせる動機付けがあるということはできない,と主張する。
 しかし,甲8の2では,注排口を改良することによって,本件空間部に水分がないため空間内及び注排口内部を滅菌することができないという課題と,本件空間部に水分を入れようとする場合の問題点を,同時に解決したものであるところ,課題の解決方法は1つとは限らないし,甲8の2で引用発明の課題を解決していることによって,引用発明の課題自体を認識できなくなるわけではないから,認識した課題を別の方法で解決しようという動機までもがなくなるものではない。



 

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