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判例検討(4)「請求項の文言の解釈に関する裁判例」

  • 2014/12/27
  • 判例検討

平成25年(ワ)第9486号特許権侵害差止等請求事件(平成26年6月19日判決)(※PDF ダウンロード)




「センサ付き省エネルギーランプ」

~請求項の文言の解釈に関する裁判例~

 

平成26年11月14日 

 

発明の名称

「センサ付き省エネルギーランプ」

事件番号

平成25年(ワ)第9486号 特許権侵害差止等請求事件(平成26年6月19日判決)

原告

P1(大韓民国の法人である株式会社セラの代表者)

被告

株式会社 大進

担当部

大阪地方裁判所第26民事部(裁判長裁判官 山田 陽三)

請求

(1)被告は,別紙被告製品目録記載1の製品を輸入し,譲渡し又は譲渡の申出をしてはならない。

(2)被告は,前項の製品を廃棄せよ。

(3)訴訟費用は被告の負担とする。

結論

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

関連条文

特許法第70条(特許発明の技術的範囲)

1 特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。

2 前項の場合においては、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。

3 前二項の場合においては、願書に添付した要約書の記載を考慮してはならない。

出願経過

①出願(特願2006-523781号)

 

②補正書(自発補正)

③拒絶理由通知書

④意見書・補正書

⑤特許査定

⑥登録

平成16年 8月17日
(優先日:平成15年8月18日)

平成18年 4月17日

平成21年10月26日

平成22年 4月28日

平成22年10月25日

平成22年12月 3日

本件特許発明

【請求項1】

 複数のランプ30と、一側に前記ランプ30が固定され、他側にネジ部11が形成されたソケットボディ10とから構成されたランプにおいて、

 前記ソケットボディ10に備えられ、周囲の照度を感知する照度センサ12と;

 前記ランプ30の点灯時間を調節するタイマー13と;

 前記ランプ30の一側に備えられ、人間の動きを感知する赤外線センサ31と;

 前記ソケットボディ10に内装され、前記照度センサ12と、タイマー13と、赤外線センサ31の出力信号に基づき、前記ランプ30の点灯を制御する点灯制御回路40と;

 前記赤外線センサ31が端部に設けられるセンサ支持台32は、前記複数のランプ30の間に介在され、前記複数のランプ30の上下方向に沿って延設され、前記複数のランプ30の高さよりも高くかつ近い位置となるように所定の長さで形成されてなることを特徴とする

 自動制御省エネルギーランプ。

被告製品

 複数のLEDチップ30aをレンズ30bで覆ってなるLEDパッケージ300aと,下部(一側)にネジ部11aが形成されるとともに上部(他側)にLEDパッケージ300aが設けられたソケットボディ10aとから構成された人感センサ付LEDランプであって,

 ソケットボディ10aに備えられ,周囲の照度を感知する照度センサ12aを有し,

 以下の3つの点灯モード及び消し忘れ機能を有するとともに,ユーザが家庭用スイッチのON-OFFを操作することにより人感センサモードあるいは連続点灯モードのいずれかを選択する手段を有しており(以下「点灯モード選択手段」という。),

 ① テストモード:電源を入れた直後約10秒間点灯し,その後約60秒経過するまでテストモード状態になり,テストモード時は昼夜関係なしに照度センサ12aが感知し,約5秒間点灯し,約60秒経過後自動で人感センサモードになる。

 ② 人感センサモード:人感センサ31aで「パッ」と自動点灯し,点灯後約3分後で自動消灯し,探知範囲に人が居る場合は自動延長する。

 ③ 連続点灯モード:人感センサモード時家庭用スイッチを2秒以内にOFF⇒ONと切り替えることにより連続点灯モードに切り替わる。再度人感センサモードに切り替える場合は再度2秒以内にOFF⇒ONとするか,5秒以上OFFの状態にしてからONにする。「テストモード⇒人感センサモード⇒連続点灯モード⇒テストモード⇒人感センサモード···」と切り替わっていく。

 ④ 消し忘れ防止機能:連続点灯モードに切り替え後,約3時間経過すると,自動で消灯する。

 センサ支持台32aの頂部(一側)に設けられ,人間の動きを感知する人感センサ31aを備え,

 ソケットボディ10aに内装され,照度センサ12a,点灯モード選択手段と,人感センサ31aの出力信号に基づき,点灯を制御する点灯制御回路40aを備え,

 人感センサ31aが端部に設けられるセンサ支持台32aは,複数のLEDチップ30aを跨いで取付台10a-3に立設されており,人感センサ31aが複数のLEDチップ30aの高さよりも高く,かつ,グローブ34a外にはみ出ない位置に設置されるようにその長さが形成されている

 人感センサ付LED電球

棄却理由

被告製品は,本件特許発明の構成要件のうちA及びFを充足すると認めることができない。

当事者の主張・裁判所の判断の要約

原告の主張

被告の主張

裁判所の判断

構成要件A

請求項1及び本件明細書等の記載に照らすと,ランプ30は電力を利用した照明装置における光源を意味し,本件特許発明はランプ30を蛍光ランプに限定していない。被告製品におけるLEDチップ30aは,電力を利用した照明装置における光源であり,ランプ30に該当する。

本件明細書等の技術分野の記載は,本件特許発明が蛍光ランプを前提とすることを示しており,LED(発光ダイオード)ライトとは異なる技術分野のものである。

構成要件Aのランプ30は,光源を意味するが,それ以上の限定はなく,蛍光ランプである必要はない(LEDによる光源を含む。)と解される。

被告製品は,複数のLEDチップ30aと,上部にLEDパッケージ300aが設けられ,下部にネジ部11aが形成されたソケットボディ10aとから構成された人感センサ付LEDランプである。

 

被告製品において,それぞれの発光素子(LEDチップ30a)はランプにはあたらず,発光素子である複数のLEDチップ30aが集積した単一のLEDライト(電球)が1個あるのみであり,複数のランプは存在しない。

LEDを使用するランプは,発光素子であるLEDチップの集合体(LEDモジュール)を光源として用いる。

被告製品では,LEDチップ30aの集合体をレンズ30bで覆ったLEDパッケージ300aが,構成要件Aのランプ30に相当するというべきであり,少なくとも,個々のLEDチップ30aをもって,構成要件Aのランプ30ということはできない。

被告製品において,ランプ30に相当する光源であるLEDチップ30aの集合体(LEDパッケージ300a)は,ひとつしか設けられていない。

したがって,被告製品は,本件特許発明の構成要件Aの「複数のランプ30」に相当する構成を有するものではなく,本件特許発明の構成要件Aを充足するということはできない。

構成要件F

被告製品は,人感センサ31aが端部に設けられたセンサ支持台32aを有している。センサ支持台32aは,複数のLEDチップ30aを跨いで取付台10a-3に立設されており,人感センサ31aが複数のLEDチップ30aの高さよりも高く,かつ,グローブ34aの外にはみ出ない位置に設置されるようにその長さが形成されている。

被告製品において,センサ支持台の周囲外方には複数のランプはなく,センサ支持台が複数のランプに介在するとはいえない。

被告製品は,ランプをひとつしか備えていない。このため,「センサ支持台32は,複数のランプ30の間に介在され」るという構成を有しておらず,構成要件Fを充足するとは認められない。

考察

 裁判では、構成要件Aの「複数のランプ30」の意義が問題となった。

 特に、

 (1)ランプ30は蛍光ランプに限定されるか、

 (2)被告製品のLEDチップ30aはランプ30に相当するか、

 という点が争われた。

 裁判所は、(1)についてランプ30は蛍光ランプに限定されない、(2)について被告製品のLEDチップ30aはランプ30に相当しない、と判断し、被告製品は構成要件Aを充足しないという結論を下した。

 

(1)についての裁判所の判断は妥当であると思われる。

 請求項1では、ランプ30としか記載されておらず(請求項9で限定されている)、蛍光ランプには限定されていない。「ランプ」は、広辞苑にも掲載されており、造語ではないし、不明確な用語でもない。

 本件明細書には、ランプ30として、蛍光ランプ以外にも白熱灯が記載されている。

 拒絶理由通知に対してもランプ30を蛍光ランプに限定するような発言はしていない。

 ランプ30が蛍光ランプでなければ本件発明の課題を解決できないというような事情もない。

 これらを考慮すると、たとえ本件明細書にランプ30としてLEDが挙げられていないにしても、「構成要件Aのランプ30は,光源を意味するが,それ以上の限定はなく蛍光ランプである必要はない(LEDによる光源を含む。)と解される」という裁判所の判断は妥当であると思われる。

 

(2)についての裁判所の判断も妥当であると思われる。

 被告製品は、LEDチップ30aの集合体をレンズ30bで覆ったLEDパッケージ300aを有している。

 LEDチップ30aがランプ30に相当するとすれば、被告製品は「複数のランプ30」を有しており、構成要件Aを充足することになる。一方、LEDパッケージ300aがランプ30に相当するとすれば、被告製品は「複数のランプ30」を有しておらず、構成要件Aを充足しないことになる。

 文言だけをみれば、ランプは非常に広い概念であるため、LEDチップ30aも「ランプ」に含まれるようにも思える。一方で、実施形態を考慮すると、ランプ30とLEDチップ30aとは、大きさが全く異なる。

 裁判所は、LEDチップ30aがランプ30に相当するのかを判断するにあたり、「LEDを使用するランプは、発光素子であるLEDチップの集合体(LEDモジュール)を光源として用いる」と述べている。これは、出願時の技術常識を考慮したものと考えられる。

 確かに、ランプのような照明用途では、LEDチップを個々に取り扱うというよりはLEDチップの集合体が使用されているであろう。

 したがって、「LEDチップ30a」ではなく「LEDチップ30aの集合体をレンズ30bで覆ったLEDパッケージ300a」がランプであるとする裁判所の判断は妥当であると思われる。

意見

 以上述べたように、裁判所の判断は妥当であり、異論をはさむ余地はないであろう。

(1)この事例は、単純に、「ランプ30が複数なかった」という理由で被告製品が本件特許発明の技術的範囲に含まれないと判断されたという点で、明細書を作成する際に参考になると思われる。

 つまり、基本中の基本であるが、明細書を作成する際には、「発明を特定するために、その構成要素は、本当に複数ある必要があるのか」という点を十分に検討することが非常に重要である。

 当然、ご承知のことと思うが、特許請求の範囲は、発明を分かりやすく説明するところではないし、発明の実施形態を記載することでもない(審査を経て実施形態と同程度にまで限定される可能性はあるにしても)。特許請求の範囲は、「特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項」を記載するところである(特許法第36条第5項)。つまり、むしろ、特許請求の範囲からは、「特許を受けようとする発明を特定するために不要な事項」は積極的に排除したほうが良い。

 

 本件特許発明について見ると、以下の出願時の請求項1においても、ランプ30は複数が前提となっている。

「【請求項1】

 ランプの点灯及び消灯を制御する点灯制御回路40を有するソケットボディ10に複数のU字形ランプ30が固定され、回転固定式ネジ部11が、電気的なソケット接続により電源が供給されるようにソケットボディ10に延設されており、

 所定のプログラムによりランプの点灯及び消灯を制御する点灯制御回路40を有するソケットボディ10には、周囲の照度を感知する照度センサ12及び点灯時間を調節するタイマー13が一体に備えられ、

 ソケットボディ10の結合溝に結合するように下部に結合部21が形成された本体カバー機能を有するベース20に、四角構造で配置された複数のU字形ランプ30の中央部にランプの光を遮断する高照度反射笠33で取り囲まれてセンサ支持台32が所定の長さで延設されており、センサ支持台32の端部には、人間の動きを感知する赤外線センサ31が下向きに突出されていること

 を特徴とする自動制御省エネルギーランプ。」

 

 また、本件明細書の段落【0017】には、「さらに、ランプの間の中央部に赤外線センサ31が備えられるように、少なくとも2つのランプ(対称構造)であればよく、3つ(三角構造)又は4つのランプを備えるのが好適である。」と記載されており、ランプが1つである例を積極的に排除している。

 

 しかしながら、発明の効果欄(本件明細書の段落【0010】)には、「本発明の第1の特徴は、1つのケースにランプとセンサとを別体で設けるのではなく、照度及び人間の動きを複合的に感知して、ランプが自動的に点灯及び消灯されるようにするために、光源としてのランプと、ランプの周辺の光を感知して昼夜を区別する照度センサと、時間を調節するタイマーと、人間を感知する赤外線センサとが一体的に形成されていることである。」と記載されている。この効果を得るにあたっては、必ずしも、ランプが複数ある必要はないように思える。

 

 おそらく、製品としては、ランプ30を1つだけ使用することを考えていなかったため、「複数のランプ30」が請求項1に構成要件として含まれてしまったのではないかと考えられる。発明は、いわば抽象的なアイデアである。一方、実施形態は、アイデアを手や目で知覚できるかたちにしたものである。したがって、「実施形態」ではなく「発明」としてとらえた場合、独立請求項において「複数のランプ30」を限定する必要はなかったように思える。そして、「複数のランプ30」を限定せずに権利化できていれば、権利侵害が成立する余地があったかもしれない。

 

 以上の点を考慮すると、独立請求項を作成した場合には、実施形態に依拠しすぎることなく、改めて「請求項の各構成要素はその発明の特定に本当に必要か」という点で再度評価し、考え得る最も広い範囲となるように独立請求項を修正する作業を徹底して行うことが、よりよい明細書を作成するために重要な事項であると思われる。

 

(2)また、裁判所は、請求項に記載のランプ30が蛍光ランプに限定されないという原告の主張を認めながらも、ランプ30はLEDチップ30aに当たらないとして原告の主張を退けている。

 この点についての裁判所の判断は、特許法第70条第2項の「前項の場合においては、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。」に即していると思われる。

 したがって、当然のことであるが、構成要件の充足性を判断するにあたっては、十分に、明細書の記載及び図面並びに出願時の技術常識を考慮して、その主張が十分に裏付けられているかを確認しておく必要がある。文言だけに着目して独自の解釈に頼った主張をしても、結局、その主張は退けられる結果となるであろう。

 

(3)本件特許にかかる出願(特願2006-523781号)は、韓国特許出願(20-2003-0026511)に基づく優先権の主張を伴う国際出願(PCT/KR2004/002052)から日本の国内段階へ移行された出願である。国内代理人は、国内段階への移行手続きの際に、特許請求の範囲の記載を見直す機会があるので、必要があれば出願人に特許請求の範囲の補正の要否等を問い合わせると良いかもしれない。ただし、特許請求の範囲に記載の内容は、出願人(および国外代理人)により熟考されているはずであるので、国内代理人としては、出願人の意向に反しないように、特許請求の範囲の内容についてどの程度まで関与すべきか注意する必要がある。

以上