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知財裁判例速報

平成29年(行ケ)第10165号 審決取消請求事件:抗ErbB2抗体を用いた治療のためのドーセージ

  • 2018/11/19
  • 知財裁判例速報

事件番号等

平成29年(行ケ)第10165号 審決取消請求事件

裁判年月日

平成30年10月11日

担当裁判所

知的財産高等裁判所(1部)

権利種別

特許権(「抗ErbB2抗体を用いた治療のためのドーセージ」)

訴訟類型

行政訴訟:審決(無効・不成立)

結果

審決取消

主文

  1. 特許庁が無効2016-800071号事件について平成29年7月5日にした審決を取り消す。
  2. 訴訟費用は甲事件・乙事件被告の負担とする。
  3. 甲事件・乙事件被告につき,この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。

趣旨

  1. 主文第1項と同旨

取消事由

(1) 実施可能要件の判断の誤り(取消事由1)
(2) 引用発明1-1及び1-2に基づく進歩性判断の誤り(取消事由2)
(3) 引用発明2-1及び2-2に基づく進歩性判断の誤り(取消事由3)
(4) 引用発明3に基づく進歩性判断の誤り(取消事由4)

裁判所の判断

  • 当業者が,相違点2に係る本件発明6の構成,すなわち,引用発明2-1に係る4/2/1投与計画による本件抗体の投与を,本件発明6に係る8/6/3投与計画による本件抗体の投与とすることを,容易に想到することができたか否かについて検討する。
    (イ) 前記のとおり,当業者は,本件優先日当時,乳がんの治療薬を含む一般的な医薬品において,投与量を多くすれば,投与間隔を長くできる可能性があり,医薬品の開発の際には,投与量と投与間隔を調整して,効能と副作用を観察すること,抗がん剤治療において,投与間隔を長くすることは,患者にとって通院の負担や投薬時の苦痛が減ることになり,費用効率,利便性の観点から望ましいということを技術常識として有していたものである。
    そして,引用例2には,本件抗体の薬物動態を観察するに当たり,本件抗体が週1回10~500mgの短持続期間の静脈注入が行われた旨記載されている。ここで,週1回10~500mgの投与は,患者の体重が60kgの場合は0.167~8.33mg/kg,70kgの場合は0.143~7.14mg/kgに相当する。そうすると,引用例2には,本件抗体を週1回8mg/kg程度までの投与量で投与できることは,示唆されているといえる。
    また,引用例2には,本件抗体の臨床試験において,本件抗体の毎週の投与と化学療法剤の3週間ごとの投与を組み合わせるという治療方法が記載されている。
    さらに,引用例2には,本件抗体の薬物動態として,本件抗体は投与量依存的な薬物動態を示し,投与量レベルを上昇させれば,半減期が長期化する旨記載されている。
    そうすると,上記のとおりの技術常識を有する当業者は,引用発明2-1のとおり本件抗体を4/2/1投与計画によって投与するだけではなく,本件抗体の投与量と投与間隔を,その効能と副作用を観察しながら調整しつつ,本件抗体の投与期間について,費用効率,利便性の観点から,併用される化学療法剤の投与期間に併せて3週間とすることや,本件抗体の投与量について,8mg/kg程度までの範囲内で適宜増大させることは容易に試みるというべきである。そして,当業者が,このように通常の創作能力を発揮すれば,本件抗体を8/6/3投与計画によって投与するに至るのは容易である。
  • よって,当業者は,引用例2の記載及び技術常識に基づき,相違点2に係る本件発明6の構成を容易に想到することができたというべきであり,本件発明6が予測できない顕著な効果を有するということもできない。本件発明6は,引用発明2-1及び技術常識に基づき,容易に発明をすることができたものということができる。本件審決は,本件発明6に係る進歩性判断を誤ったものであるから,取り消されるべきものである。 ・引用例2に,前記第2の3(3)ア(ア)のとおり,引用発明2-2が記載されていること,本件発明1と引用発明2-2との相違点は,前記第2の3(3)ア(イ)bのとおりであることは当事者間に争いがない。
    そして,本件発明6と同様に,当業者は,引用例2の記載及び技術常識に基づき,相違点2に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたというべきであり,本件発明1が予測できない顕著な効果を有するということもできない。
    よって,本件発明1は,引用発明2-2及び技術常識に基づき,容易に発明をすることができたものということができる。本件審決は,本件発明1に係る進歩性判断を誤ったものであるから,取り消されるべきものである。
  • 本件審決は,本件発明2ないし5は,本件発明1をさらに限定する内容の発明であるから,本件発明1と同様に,本件発明7ないし9は,本件発明6をさらに限定する内容の発明であるから,本件発明6と同様に,いずれも当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないと判断した。
    しかし,前記のとおり,本件発明1及び6は,いずれも当業者が容易に発明をすることができたものである。本件発明2ないし5及び7ないし9の進歩性に関し,その余の相違点について判断することなく審判請求が成り立たないとした本件審決の判断は,取り消されるべきものである。
  • よって,取消事由3は理由がある。
  • 以上のとおり,原告ら主張の取消事由3は理由があるから,原告らの請求を認容することとし,主文のとおり判決する。

キーワード

進歩性(相違点の判断)


 

判決文