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知財裁判例速報

平成29年(行ケ)第10213号 審決取消請求事件:スロットマシン

  • 2018/10/12
  • 知財裁判例速報

事件番号等

平成29年(行ケ)第10213号 審決取消請求事件

裁判年月日

平成30年9月10日

担当裁判所

知的財産高等裁判所(2部)

権利種別

特許権(「スロットマシン」)

訴訟類型

行政訴訟:審決(拒絶)

結果

請求棄却

主文

  1. 特許庁が不服2016-18811号事件について平成29年10月11日にした審決を取り消す。
  2. 訴訟費用は被告の負担とする。

趣旨

主文同旨

取消事由

  1. 取消事由1(拒絶理由通知欠缺による手続違背)
  2. 取消事由2(独立特許要件違反の判断〔新規性・進歩性判断〕の誤り)

裁判所の判断

  • 本願に対する審査・審判手続の具体的経過に照らすと,刊行物1に基づく拒絶理由通知がされていない審決時において,原告の防御の機会が実質的に保障されていないと認められるから,審判合議体は,同法159条2項により準用される同法50条本文に基づき,新拒絶理由に当たる刊行物1に基づく拒絶理由を通知すべきであったということができる。それにもかかわらず,上記拒絶理由通知をすることなく本件補正を却下した審決には,同法159条2項により準用される同法50条本文所定の手続を怠った違法があり,この違法は審決の結論に影響を及ぼすものと認められる。これに反する被告の主張を採用することはできない。
  • 以上によると,拒絶理由通知欠缺による手続違背をいう取消事由1は,理由がある。
  • 引用発明1の「チャンスゾーン演出」は,本願補正発明の「特定演出」に相当しない。したがって,本願補正発明が引用発明1と同一であるとは認められない。また,引用発明1において,本願補正発明の「特定演出」に係る構成を採用することを,当業者が容易に想到し得たことを認めるに足りる根拠はない。なお,前記第2の3(1)イ(キ)のとおり,審決は,「仮に相違する点があるとしても,本願補正発明は,引用発明1又は引用発明2から当業者が容易に想到し得たものである」と判断したところ,この特許法29条2項に係る判断は,本願補正発明と引用発明1との相違点が特定されておらず,本願補正発明と引用発明1との相違点に係る本願補正発明の構成がいかなる論理付けにより容易想到であるといえるのかも何ら記載されていないものである。
  • 引用発明2の「ボーナスに当選している旨」の「報知」は,本願補正発明の「特別演出」に相当しない。したがって,本願補正発明が引用発明2と同一であるとは認められない。また,引用発明2において,本願補正発明の「特別演出」に係る構成を採用することを,当業者が容易に想到し得たことを認めるに足りる証拠はない。なお,前記第2の3(1)イ(キ)のとおり,審決は,「仮に相違する点があるとしても,本願補正発明は,引用発明1又は引用発明2から当業者が容易に想到し得たものである」と判断したところ,この特許法29条2項に係る判断は,本願補正発明と引用発明2との相違点が特定されておらず,本願補正発明と引用発明2との相違点に係る本願補正発明の構成がいかなる論理付けにより容易想到であるといえるのかも何ら記載されていないものである。
  • 以上によると,取消事由1及び2は,いずれも理由があり,審決にはその結論に影響を及ぼす違法があるから,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。

キーワード

新規性及び進歩性(相違点の認定,相違点の判断)/補正・訂正の許否(独立特許要件)/手続違背(引用条文(特許法159条2項により準用される50条本文))



実務上役立つと思われる点を、以下の通り判決文より抜粋する。

  以上の諸点を考慮すると,特許法159条2項により読み替えて準用される同法50条ただし書に当たる場合であっても,特許出願に対する審査・審判手続の具体的経過に照らし,出願人の防御の機会が実質的に保障されていないと認められるようなときには,同法159条2項により準用される同法50条本文に基づき拒絶理由通知をしなければならず,しないことが違法になる場合もあり得るというべきである。

(4) 本件においては,前記(1)のとおり,本件拒絶査定の理由は,本件先願を理由とする拡大先願(特許法29条の2)であるのに対し,審決が本件補正を却下した理由は,刊行物1を理由とする新規性欠如(同法29条1項3号)及び進歩性欠如(同条2項)であって,適用法条も,引用文献も異なるものである。刊行物1は,本件補正を受けた前置報告書において初めて原告に示されたものであるが,刊行物1に基づく拒絶理由通知はされていないことから,原告には,刊行物1に基づく拒絶理由を回避するための補正をする機会はなかった。

 なお,刊行物1の出願人は原告自身ではあるものの,後記2のとおり,刊行物1記載の引用発明1及び引用発明2は,本願補正発明の「特定演出」又は「特別演出」の構成を欠くものと認められ,「特定演出」及び「特別演出」は本願発明の発明特定事項でもあることからすると,原告において,本件補正までに,刊行物1に基づく拒絶理由を回避するための補正をしておくべきであったものということもできず,その他,刊行物1に基づく拒絶理由通知がなくても原告の防御の機会が実質的に保障されていたと認められる特段の事情も見当たらない。
 以上の本願に対する審査・審判手続の具体的経過に照らすと,刊行物1に基づく拒絶理由通知がされていない審決時において,原告の防御の機会が実質的に保障されていないと認められるから,審判合議体は,同法159条2項により準用される同法50条本文に基づき,新拒絶理由に当たる刊行物1に基づく拒絶理由を通知すべきであったということができる。それにもかかわらず,上記拒絶理由通知をすることなく本件補正を却下した審決には,同法159条2項により準用される同法50条本文所定の手続を怠った違法があり,この違法は審決の結論に影響を及ぼすものと認められる。これに反する被告の主張を採用することはできない。

 

判決文