事件番号等
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平成29年(行ケ)第10139号 審決取消請求事件
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裁判年月日
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平成30年4月16日
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担当裁判所
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知的財産高等裁判所(第4部)
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権利種別
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特許権(「モニタリング装置及び方法」)
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訴訟類型
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行政訴訟:審決(拒絶)
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結果
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審決取消
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主文
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- 特許庁が不服2016-4465号事件について平成29年2月20日にした審決を取り消す。
- 訴訟費用は被告の負担とする。
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趣旨
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主文同文
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争点
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本願補正発明の進歩性判断の誤り
(1) 引用発明の認定の誤り及び相違点の看過
(2) 相違点の容易想到性判断の誤り
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裁判所の判断
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- 引用発明における条件判断の順序を入れ替えることが単なる設計変更ということはできず,また,引用発明に本件周知技術を適用しても,相違点に係る本願補正発明の構成には至らないというべきであるから,相違点に係る本願補正発明の構成は,引用発明に基づき,容易に想到できたものとはいえない。
- 以上によれば,本願補正発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではなく,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるから,本件補正を却下して,本願発明は特許を受けることができないとした本件審決の判断には誤りがある。
- 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由があるから,原告の請求を認容することとし,主文のとおり判決する。
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キーワード
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進歩性(引用発明の認定,相違点の認定,相違点の判断)
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実務上役立つと思われる点を、以下の通り判決文より抜粋する。
(4) 相違点の容易想到性
ア 本件周知技術
周知例1及び2から,「自動車のブレーキ等の作動を自動的に制御するに当たり,特定の条件を満たした場合は,作動装置(ブレーキ)の作動が行われないように,作動装置の始動(ブレーキを働かせる信号)を無効にすること」との本件周知技術が認められることは,当事者間に争いがない。
イ 相違点の容易想到性判断
(ア) 引用発明
引用発明の衝突対応車両制御は,衝突対応制御プログラムが実行されることによって行われる。同プログラムは,S1の自車線上存在物特定ルーチン及びS2のACC・PCS対象特定ルーチンにおいて,自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性が判断され,その後に処理されるS5のACC・PCS作動ルーチンにおいて,自車両の速度,ブレーキ操作部材の操作の有無,自車両と直前存在物との衝突時間や車間時間等の条件に応じて,特定のACC制御やPCS制御が開始され,又は開始されないというものである。
(イ) 条件判断の順序の入替えについて
本願補正発明では,ターゲット物体との相対移動の検知に応答してアクションを始動するように構成された後に,自車線上にある存在物を特定し,アクションの始動を無効にするという構成が採用されている。したがって,引用発明を,相違点に係る本願補正発明の構成に至らしめるためには,少なくとも,まず,自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性判断を行い,続いて,特定のACC制御やPCS制御を開始するために自車両の速度等の条件判断を行うという引用発明の条件判断の順序を入れ替える必要がある。
しかし,引用発明では,S1及びS2において,自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性が判断される。この条件は,ACC制御,PCS制御の対象となる前方存在物を特定するためのものである(引用例【0091】)。そして,引用発明は,これにより,多数の特定存在物の中から,自車線上にある存在物を特定し,ACC制御,PCS制御の対象となる存在物を絞り込み,ACC制御,PCS制御のための処理負担を軽減することができる。一方,ACC制御,PCS制御の対象となる存在物を絞り込まずに,ACC制御,PCS制御のための処理を行うと,その処理負担が大きくなる。このように,引用発明において,自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性判断を,ACC制御,PCS制御のための処理の前に行うか,後に行うかによって,その技術的意義に変動が生じる。
したがって,複数の条件が成立したときに特定のアクションを始動する装置において,複数の条件の成立判断の順序を入れ替えることが通常行い得る設計変更であったとしても,引用発明において,まず,特定のACC制御やPCS制御を開始するために自車両の速度等の条件判断を行い,続いて,自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性判断を行うという構成を採用することはできない。
よって,引用発明における条件判断の順序を入れ替えることが,単なる設計変更であるということはできないから,相違点に係る本願補正発明の構成は,容易に想到することができるものではない。
(ウ) 本件周知技術の適用
a 引用発明における条件判断の順序を入れ替えることが単なる設計変更であったとしても,条件判断の順序を入れ替えた引用発明は,まず,自車両の速度等の条件判断がされ,続いて,自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性が判断され,その後,特定のACC制御やPCS制御が開始され,又は開始されないものになる。そして,これに本件周知技術を適用できたとしても,本件周知技術を適用した引用発明は,まず,自車両の速度等の条件判断がされ,続いて,自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性が判断され,その後,特定のACC制御やPCS制御が開始され,又は開始されないものになり,加えて,特定の条件を満たした場合には,当該ACC制御やPCS制御の始動が無効になるにとどまる。
ここで,本件周知技術を適用した引用発明は,特定の条件を満たした場合に,PCS制御等の始動を無効にするものである。そして,本件周知技術を適用した引用発明においては,PCS制御等の開始に当たり,既に,自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性が判断されているから,自車線上の存在物であるか否かという条件を,再度,PCS制御等の始動を無効にするに当たり判断される条件とすることはない。
これに対し,相違点に係る本願補正発明の構成は,「横方向オフセット値に基づいて」,すなわち,自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性判断に基づいて,少なくとも1のアクションの始動を無効にするものである。
したがって,引用発明に本件周知技術を適用しても,相違点に係る本願補正発明の構成には至らないというべきである。
b なお,本件周知技術を適用した引用発明は,自車両の速度等の条件判断と,それに続く,自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性判断をもって,PCS制御等を開始するものである。PCS制御等の開始を,自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性判断よりも前に行うことについて,引用例には記載も示唆もされておらず,このことが周知慣用技術であることを示す証拠もない。
したがって,引用発明に本件周知技術を適用しても,その発明は相違点に係る本願補正発明の構成には至らないところ,さらに,PCS制御等の開始を,自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性判断よりも前に行うことにより,当該発明を,相違点に係る本願補正発明の構成に至らしめることができるものではない。
c そもそも,本願補正発明では,ターゲット物体との相対移動の検知に応答してアクションを始動するように構成された後に,自車線上にある存在物を特定し,アクションの始動を無効にするという構成が採用されている。本願補正発明は,ターゲット物体との相対移動の検知に応答してアクションを始動するという既存の構成に,当該構成を変更することなく,単に,自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性判断を付加することによって,アクションの始動を無効にするというものであり,引用発明とは技術的思想を異にするものである。
(エ) 以上のとおり,引用発明における条件判断の順序を入れ替えることが単なる設計変更ということはできず,また,引用発明に本件周知技術を適用しても,相違点に係る本願補正発明の構成には至らないというべきであるから,相違点に係る本願補正発明の構成は,引用発明に基づき,容易に想到できたものとはいえない。
判決文