事件番号等
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平成29年(行ケ)第10154号 審決取消請求事件
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裁判年月日
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平成30年1月30日
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担当裁判所
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知的財産高等裁判所(第1部)
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権利種別
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特許権(「トール様受容体に基づく免疫反応を調整する免疫調節ヌクレオチド(IRO)化合物」)
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訴訟類型
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行政訴訟:審決(拒絶)
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結果
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審決取消
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主文
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- 特許庁が不服2014-14059号事件について平成28年5月20日にした審決を取り消す。
- 訴訟費用は被告の負担とする。
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趣旨
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- 特許庁が不服2014-14059号事件について平成28年5月20日にした審決を取り消す。
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取消事由
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- 取消事由1(手続違背)
- 取消事由2(本願発明の認定の誤り)
- 取消事由3(実施可能要件及びサポート要件に係る各判断の誤り)
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裁判所の判断
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- 原告の取消事由3のうち,TLR9についての取消事由は理由があるものの,TLR7及び8についての取消事由は理由がないから,取消事由3は,結論において理由がない。
- 本件拒絶査定不服審判において,従前の拒絶査定の理由とは異なる拒絶理由について,TLR9に係る発明に対してはこれを通知したものの,TLR7及び8に係る各発明に対しては実質的にこれを通知しなかったため,原告が補正により特許要件を欠くTLR7及び8に係る各発明を削除する可能性が認められたのにこれを削除することができず,特許要件を充足するTLR9に係る発明についてまで本件拒絶査定不服審判の不成立審決を最終的に免れる機会を失ったものと認められる。したがって,審決には,特許法50条を準用する同法159条2項に規定する手続違背の違法があるというべきであり,当該手続違背の違法は,審決の結論に影響を及ぼすというべきであるから,取消事由1は,理由があるものと認められる。
- 以上によれば,取消事由2及び3は理由がないが,取消事由1は理由があるから,審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。
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キーワード
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特許請求の範囲の記載要件(サポート要件)/明細書の記載要件(実施可能要件)/手続違背(特許法159条2項)
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実務上役立つと思われる点を、以下の通り判決文より抜粋する。
ア 特許法50条を準用する同法159条2項の意義
特許法50条本文は,拒絶査定をしようとする場合は,出願人に対し拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えなければならないと規定し,同法17条の2第1項1号に基づき,出願人には指定された期間内に補正をする機会が与えられ,これらの規定は,同法159条2項により,拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合にも準用される。
この準用の趣旨は,審査段階で示されなかった拒絶理由に基づいて直ちに請求不成立の審決を行うことは,審査段階と異なりその後の補正の機会も設けられていない(もとより審決取消訴訟においては補正をする余地はない。)以上,出願人である審判請求人にとって不意打ちとなり,過酷であるため,手続保障の観点から,出願人に意見書の提出の機会を与えて適正な審判の実現を図るとともに,補正の機会を与えることによって,出願された特許発明の保護を図ったものと理解される(知的財産高等裁判所平成22年(行ケ)第10298号同23年10月4日判決,知的財産高等裁判所平成25年(行ケ)第10131号同26年2月5日判決各参照)。
このような適正な審判の実現と特許発明の保護との調和は,複数の発明が同時に出願されている場合の拒絶査定不服審判において,従前の拒絶査定の理由が解消されている一方,複数の発明に対する上記拒絶査定の理由とは異なる拒絶理由について,一方の発明に対してはこれを通知したものの,他方の発明に対しては実質的にこれを通知しなかったため,審判請求人が補正により特許要件を欠く上記他方の発明を削除する可能性が認められたのにこれを削除することができず,特許要件を充足する上記一方の発明についてまで拒絶査定不服審判の不成立審決を最終的に免れる機会を失ったといえるときにも,当然妥当するものであって,このようなときには,当該審決に,特許法50条を準用する同法159条2項に規定する手続違背の違法があるというべきである。
判決文