平成26年法改正情報
A.特許法の改正
1.救済措置の拡充
(1)手続期間(実用新案法,意匠法,商標法等にも同様の措置)についての救済
以下の手続きについては、出願人等に災害などのやむを得ない事由が生じた場合には、期間の経過後6ヵ月以内であれば、その事由がなくなった日から14日以内に限り、手続きが認められるようになります。
・新規性喪失の例外の証明書の提出
・分割出願(査定後に認められる分割出願について)
・既納の特許料の返還請求
・出願審査請求の手数料の返還請求
・実用新案出願または意匠出願から特許出願への出願変更
・特許権の存続期間の延長登録の出願
・特許料の納付
(2)手続期間以外についての救済
(ア)優先権(国内優先権,パリ条約優先権など)
・最初の出願から1年以内に特許出願をすることができなかったとしても、それが災害などのやむを得ない事由によるときは、一定期間に限り優先権の主張を伴う特許出願が認められるようになります。
・「優先権の主張をする旨の書面」については、現在、出願と同時に提出する必要がありますが、本改正によって、出願から一定期間に限り提出が認められるようになります。また、この「優先権の主張をする旨の書面」についての補正が認められるようになります。
(イ)出願審査請求制度
・出願審査請求の請求期間を徒過しても、それが災害などのやむを得ない事由によるときは、一定期間に限り出願審査請求が認められるようになります。
・この出願審査請求の期限を徒過した時期に第三者がその発明の実施を開始した場合には、一定の要件のもとで、その第三者に通常実施権が認められます。
2.特許異議の申立て制度の創設
特許異議申立制度は、特許掲載公報発行日から6ヵ月間に限り、広く第三者に特許の取り消しを求める機会を与え、審査の是正をして特許権の安定化を図ることを目的として導入されます。
概要は以下の通りです。
・平成6年改正法の特許異議申立制度(平成15年改正により廃止)とほぼ同じ制度。
・誰でも申立てをすることができる(自然人・法人を問わない)。※1
・特許掲載公報発行日から6ヵ月以内に申立てができる。
・全件、書面審理である。
・請求項ごとの申立てができる。
・取消理由通知の通知後に、意見書提出期間が与えられる。この意見書提出期間に訂正請求ができる。
・訂正請求があった場合には、異議申立人はこれに対して意見書を提出できる。
・取消決定に不服がある場合には、知的財産高等裁判所に取り消しを求めて提訴することができる。
※1 法改正により特許無効審判制度については請求人が利害関係人のみに限られる。
B.意匠法の改正
1.改正の趣旨
日本は、複数国に対して一括に出願できる国際出願を可能とするために、特許は「特許協力条約(PCT)」に、商標は「マドリッド協定の議定書(マドプロ)」に加入していますが、意匠については、これまでこのような国際出願ができませんでした。
そこで、意匠についても国際出願の制度を導入するために、日本は、「ジュネーブ改正協定」(正式名称:意匠の国際登録に関するハーグ協定のジュネーブ改正協定)に加入する準備をしています。
今回の意匠法改正は、この国際出願の制度導入に向けて、国内法を整備するものです。
2.改正の概要
(1)これまでの出願手続
日本と外国に意匠出願する時は、下図のように、各国毎に出願するしかありませんでした。
【通常の各国毎の出願手続】
(2)改正により可能となる出願手続
今後は、ジュネーブ改正協定に加入している国であれば、下図のように、一つの手続で、複数国(※日本を含めることも可)に対する一括出願が可能になります。(但し、指定国の事後的追加はできないので、出願時に出願国を全て決定する必要があります。)
【国際出願による出願手続】
<メリット>
①費用が安い
②出願手続が容易
③意匠権の管理が容易
(複数国の意匠権の、年金納付(5年毎に更新手続)、権利者の名称・住所変更、権利譲渡等が、国際事務局に対する一括の手続で行えます。)
(3)具体的な改正内容
「国際登録出願」と「国際意匠登録出願」について、それぞれ規定されています。
これらは、名前が似ていますが、同じものではありません!
(ⅰ)国際登録出願
・日本特許庁を通じて出願された国際出願【国際段階の出願】
・主な規定
規定の内容 |
補足 |
条文 |
日本国民及び日本に住所等を有する外国人が出願できる |
――――――――― |
60条の3(1) |
外国語で願書等を提出 |
「外国語」は、政令により定められる予定であるが、おそらく英語 |
60条の3(2) |
(ⅱ)国際意匠登録出願
・日本を指定する国際出願で、国際登録及び国際公表がされたもの【国内段階の日本出願】
・主な規定
規定の内容 |
補足 |
条文 |
複数意匠を含む国際出願は、意匠ごとにされた別々の意匠登録出願とみなす |
ジュネーブ改正協定に基づく国際出願は多意匠一出願が可能であるため、日本の一意匠一出願制度(7条)に合わせる必要がある |
60条の6(2) |
秘密意匠制度は適用しない |
国際出願は、原則、国際登録から6月後に国際公表されるためである |
60条の9 |
補償金請求権が認められる |
国際公表されることによる模倣被害を防止するためである |
60条の12 |
C.商標法の改正
1.保護対象の拡充
日本では、商標の保護対象を「文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合」としていますが、欧米や韓国、中国などでは、色彩そのものや音等をも商標の保護対象としており(中国は音のみ)、又、実際に日本企業がそれらの権利取得を進めるケースも増加してきており、我が国における色彩や音などに対する商標の保護のニーズも顕在化しています。
また、色彩のみや音等からなる商標、いわゆる「新しい商標」について、登録されれば、差止請求や、損害賠償請求が可能となり、さらに、マドリッド協定の議定書の利用によって、複数国に対して一括して出願できるといった実益などもあります。
そこで、日本においてもいわゆる「新しい商標」を商標の保護対象に追加すべく、商標法の一部改正を行うこととなりました。
具体的には、①色彩のみの商標、②音の商標、③動きの商標、④ホログラムの商標、⑤位置の商標が追加されます。
(特許庁「平成26年 特許法等の一部を改正する法律について」 より抜粋)
2.地域団体商標の登録主体の拡充
現行制度上、地域団体商標の保護する地域ブランドの主体は、事業協同組合やこれに相当する外国法人等に限られていました。
しかし、近年、地域おこしの観点から、商工会やNPO法人(非営利活動法人)も地域ブランド普及の一翼を担うようになってきていることから、商工会などによる地域ブランドについても地域団体商標として商標権を認めれば、地域ブランドの更なる普及・展開につながるとともに、当該地域ブランドに「ただ乗り」(フリーライド)する者に対して差止請求や損害賠償請求が可能となります。
そこで、商工会、商工会議所及びNPO法人を地域団体商標の登録主体に追加すべく、商標法の一部改正を行うこととなりました。
尚、地域団体商標の登録主体の拡充についての改正規定は既に施行されています(施行日:平成26年8月1日)ので、地域ブランドの普及に努められている商工会、商工会議所及びNPO法人は、直ちに地域団体商標を出願できます。
詳しくは、特許庁HP にて確認してください。
以上