事件番号等
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平成29年(行ケ)第10006号 審決取消請求事件(「甲事件」)
平成29年(行ケ)第10015号 審決取消請求事件(「乙事件」)
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裁判年月日
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平成29年8月22日
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担当裁判所
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知的財産高等裁判所(第3部)
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権利種別
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特許権(「ランフラットタイヤ」)
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訴訟類型
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行政訴訟:審決(無効・成立)
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結果
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審決一部取消
主文
- 特許庁が無効2015-800158号事件について平成28年12月9日にした審決のうち,特許第4886810号の請求項1ないし4に係る部分を取り消す。
- 甲事件原告・乙事件被告の甲事件請求を棄却する。
- 訴訟費用は,甲事件乙事件を通じ,甲事件原告・乙事件被告の負担とする。
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趣旨
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- 甲事件
特許庁が無効2015-800158号事件について平成28年12月9日にした審決のうち,特許第4886810号の請求項6ないし13に係る部分を取り消す。
- 乙事件
特許庁が無効2015-800158号事件について平成28年12月9日にした審決のうち,特許第4886810号の請求項1ないし4に係る部分を取り消す。
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取消事由
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・被告(甲事件被告・乙事件原告)主張の取消事由
- 本件発明1ないし4の明確性要件に係る判断の誤り(取消事由1)
・原告(甲事件原告・乙事件被告)主張の取消事由
- 本件発明6について
ア 本件発明6のサポート要件に係る判断の誤り(取消事由2)
イ 本件発明6の実施可能要件に係る判断の誤り(取消事由3)
ウ 本件発明6の引用発明1Aに基づく進歩性判断(相違点1)の誤り(取消事由4)
エ 本件発明6の引用発明1A及び引用発明2に基づく進歩性判断(相違点1)の誤り(取消事由5)
オ 本件発明6の引用発明1A及び引用発明3に基づく進歩性判断(相違点1)の誤り(取消事由6)
カ 本件発明6の引用発明4に基づく進歩性判断(相違点3)の誤り(取消事由7)
- 本件発明7について
ア 本件発明7のサポート要件に係る判断の誤り(取消事由8)
イ 本件発明7の実施可能要件に係る判断の誤り(取消事由9)
ウ 本件発明7の引用発明1Bに基づく進歩性判断(相違点5及び6)の誤り(取消事由10)
- 本件発明8ないし13に関する判断の誤り(取消事由11)
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裁判所の判断
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- 甲事件に係る原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,乙事件に係る被告の請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。
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キーワード
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進歩性サポート要件/明確性(「急激な降下」、「急激な降下部分の外挿線」、「ほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線」)/実施可能要件
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実務上役立つと思われる点を、以下の通り判決文より抜粋する。
2 取消事由1(本件発明1ないし4の明確性要件に係る判断の誤り)について
(1) 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だけではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
原告は,本件発明1及び2に係る特許請求の範囲の記載のうち,「急激な降下」,「急激な降下部分の外挿線」及び「ほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線」との各記載が不明確であると主張するから,以下検討する。
(2) 「急激な降下」,「急激な降下部分の外挿線」との記載
ア 請求項1及び2の記載のうち「急激な降下」部分とは,動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,左から右に向かって降下の傾きの最も大きい部分を意味することは明らかである(【図2】)。また,傾きの最も大きい部分の傾きの程度は一義的に定まるから,「急激な降下部分の外挿線」の引き方も明確に定まるものである。
イ これに対し,原告は,動的貯蔵弾性率の傾きが具体的にどのような値以上になったときに「急激な降下」と判断すればよいか分からない旨主張する。しかし,「急激な降下」とは,相対的に定まるものであって,傾きの程度の絶対値をもって特定されるものではないから,同主張は失当である。
(3) 「ほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線」との記載
ア ASTM規格(乙31)は,世界最大規模の標準化団体である米国試験材料協会が策定・発行する規格であるところ,ASTM規格においては,温度上昇に伴って変化する物性値のグラフから,ポリマーのガラス転移温度を算出するに当たり,ほぼ直線的に変化する部分を特段定義しないまま,同部分の外挿線を引いている。
また,JIS規格(乙13)は,温度上昇に伴って変化する物性値のグラフから,プラスチックのガラス転移温度を算出するに当たり,「狭い温度領域では直線とみなせる場合もある」「ベースライン」を延長した直線を,外挿線としている。
そうすると,ポリマーやプラスチックのガラス転移温度の算出に当たり,温度上昇に伴って変化する物性値のグラフから,特定の温度範囲における傾きの変化の条件を規定せずに,ほぼ直線的な変化を示す部分を把握することは,技術常識であったというべきである。
そして,ポリマー,プラスチック及びゴムは,いずれも高分子に関連するものであるから,ゴム組成物の耐熱性に関する技術分野における当業者は,その主成分である高分子に関する上記技術常識を当然有している。
したがって,ゴム組成物の耐熱性に関する技術分野における当業者は,上記技術常識をもとに,昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,特定の温度範囲における傾きの変化の条件が規定されていなくても,「ほぼ直線的な変化を示す部分」を把握した上で,同部分の外挿線を引くことができる。
イ これに対し,原告は,ASTM規格におけるガラス転移温度の測定方法における「ベースライン」と,本件発明1における「ほぼ直線的な変化を示す部分」とが関連することを,当業者は理解できないなどと主張する。
しかし,ゴム組成物の耐熱性に関する技術分野における当業者は,その主成分である高分子についての技術常識を当然有しているというべきであるから,ASTM規格やJIS規格における技術常識をもとに,「ほぼ直線的な変化を示す部分」という請求項の記載の意味内容を理解できるものである。
ウ また,原告は,本件発明1及び2においては2℃のずれが問題となっているから,ASTM規格は参考にできるものではなく,本件発明1及び2に関連するゴム組成物の動的貯蔵弾性率の温度による変化を計測したグラフにおいて,外挿線A及び外挿線Bは,その引き方によっては交点温度に5.8℃の差や3℃の差が生じる旨主張する。
しかし,後記5⑵のとおり,本件特許の原出願の優先日当時,ランフラットタイヤのサイド部の補強用ゴム組成物の温度範囲は,せいぜい150℃以下の温度範囲で着目されていたにすぎなかったところ,本件発明6は,サイド部の補強用ゴム組成物の180℃から200℃までの動的貯蔵弾性率の変動に着目したものである。本件発明7も,ビード部の補強用ゴム組成物の同様の数値範囲に着目したものである。そして,本件発明1及び2は,かかる技術的思想を,外挿線Aと外挿線Bの交点の温度が170℃以上であるゴム組成物として特定したものである。
そして,本件発明1及び2と同種であるゴム組成物の動的貯蔵弾性率の温度による変化を計測したグラフにおける外挿線A及び外挿線Bの交点温度は,その引き方によっても1℃の差が生ずるにとどまる(甲6の実施例6のゴム組成物に関する甲217,図2,3。なお,図4の接線3は,「ほぼ直線的な変化を示す部分」の外挿線ということはできない。また,引用例1の実施例4及び15のゴム組成物に関する甲1の1の外挿線Aも,動的貯蔵弾性率の最大値温度から10℃ないし30℃低い温度における動的貯蔵弾性率の部分の接線であり,「ほぼ直線的な変化を示す部分」の外挿線Aではない。)。
このように,外挿線Aと外挿線Bの交点温度として特定された170℃という温度は,補強用ゴム組成物の180℃から200℃までの動的貯蔵弾性率の変動に着目したことから導かれたものであって,かかる交点温度は,その引き方によっても1℃の差が生ずるにとどまる。そうすると,外挿線Aと外挿線Bの交点温度によって,ゴム組成物の構成を特定するという特許請求の範囲の記載は,第三者の利益が不当に害されるほどに不明確なものとはいえない。
(4) 小括
したがって,本件発明1及び2に係る特許請求の範囲の記載のうち,「急激な降下」,「急激な降下部分の外挿線」及び「ほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線」との各記載は明確であって,本件特許の特許請求の範囲請求項1及び2の記載が明確性要件に違反するということはできない。請求項3及び4の各記載も同様であるから,明確性要件に違反するということはできない。
よって,取消事由1は理由がある。
判決文