事件番号等
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平成28年(ワ)第5104号 不正競争行為差止等請求事件
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裁判年月日
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平成29年6月15日
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担当裁判所
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大阪地方裁判所(第21民事部)
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権利種別
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意匠権(「手洗器付トイレタンクのボウル用シート」)
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訴訟類型
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民事訴訟
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結果
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一部認容
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趣旨
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- 被告は,別紙原告商品目録記載の商品の販売が意匠登録第1540828号意匠権を侵害するとの事実を告知し,又は流布してはならない。
- 被告は,原告に対し,330万円及びこれに対する平成28年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
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争点
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(1) 原告商品の販売は,本件意匠権の侵害にならないといえるか。
(2) 本件告知行為による不正競争防止法2条1項15号所定の不正競争の成否
(3) 原告の被告に対する虚偽事実の告知行為の差止請求は認められるか。
(4) 本件告知行為につき被告に過失があるか。
(5) 原告の損害
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裁判所の判断
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- 原告意匠は本件意匠に類似していないということができる。
- 原告意匠は本件意匠と利用関係にあるとして,利用による侵害をいう被告の主張は失当である。
- 被告が原告の取引先であるコープPに対してした本件告知行為は,「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知」する行為といえ,原告に対する不正競争防止法2条1項15号所定の不正競争に該当する。
- 原告は,上記虚偽事実の告知により営業上の信用を害されるおそれがあり,他方,被告は,上記虚偽事実の告知をするおそれがあるから,原告の被告に対する虚偽事実の告知の差止請求には理由がある。
- 被告は原告商品の販売が本件意匠権の侵害であるとの事実を原告の取引先であるコープPに対して警告するに当たり,原告商品の販売が本件意匠権の侵害との判断が誤りであった場合,原告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知となって,製造者である原告の営業上の信用を害することになることなどを留意することなく本件告知行為をしたものと推認すべきであり,意匠権の権利行使を目的として上記行為に及んだことを考慮しても,以上の事実関係のもとでは,そのような誤信がやむを得なかったとはいえないから,被告は,本件告知行為をするに当たって必要な注意義務を尽くしたとはいえず過失があったというべきである。
- 原告の請求は,虚偽事実の告知行為の差止め並びに被告に対して55万円の損害賠償及びこれに対する本件告知行為後である平成28年2月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるからその限度で認容することとし,その余の請求には理由がないことからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条本文を,仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用する。
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キーワード
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類否判断/基本的構成態様/パイオニア意匠/不正競争行為(虚偽事実の告知行為)/損害額
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実務上役立つと思われる点を、以下の通り判決文より抜粋する。
被告は,本件意匠の実施品は,手洗器付トイレタンクのボウルの表面への埃,水垢等の付着を防止するという課題を解決するアイデア商品であって,その当時,市場に同種の用途,機能を有する物品はなかったことから,本件意匠はパイオニア意匠であるとして,意匠に係る物品全体の形態,すなわち基本的構成態様そのものが要部であるように主張する。
しかし,本件意匠の実施品が新品種の商品であって,その基本的構成態様が新規なものであったとしても,意匠に係る物品の説明に明らかなように,その物品の使用目的から,取引者・需要者は,その基本的構成態様が,取り付ける先のボウルの形状に規定されているものにすぎないことは容易に理解できるところであるから,本件意匠の基本的構成態様そのものをもって,最も注意を惹きやすい部分ということはできず,その点に要部があると認めることはできないから,被告の上記主張は採用できない。
実務上役立つと思われる点を、以下の通り判決文より抜粋する。
知的財産権を有する者が,侵害行為を発見した場合に,その侵害行為の差止を求めて侵害警告をすることは,基本的に正当な権利行使であり,その侵害者が侵害品を製造者から仕入れて販売するだけの第2次侵害者の場合であっても同様である。しかし,侵害品を事業として自ら製造する第1次侵害者と異なり,これを仕入れて販売するだけの第2次侵害者は,当該侵害品の販売を中止することによる事業に及ぼす影響が大きくなければ,侵害警告を不当なものと考えても,紛争回避のために当該侵害品の仕入れをとりあえず中止する対応を採ることもあり,その場合,侵害警告が誤りであっても,第1次侵害者に対する販売の差止めが実現されたと同じ結果が生じてしまうから,こと第2次侵害者に対して侵害警告をする場合には,権利侵害であると判断し,さらに侵害警告することについてより一層の慎重さが求められるべきである。したがって,正当な権利行使の意図,目的であったとしても,権利侵害であることについて,十分な調査検討を行うことなく権利侵害と判断して侵害警告に及んだ場合には,必要な注意義務を怠ったものとして過失があるといわなければならない。
判決文