事件番号等
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平成28年(ワ)第7763号 特許権に基づく製造販売禁止等請求事件
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裁判年月日
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平成29年5月31日
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担当裁判所
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東京地方裁判所(民事第29部)
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権利種別
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特許権(「分断部分を有するセルフラミネート回転ケーブルマーカーラベル」)
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訴訟類型
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民事訴訟
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結果
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請求棄却
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趣旨
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- 被告は,別紙1物件目録記載の製品を製造し,販売してはならない。
- 被告は,別紙1物件目録記載の製品の輸入,輸出,販売の申出又は販売のための展示をしてはならない。
- 被告は,別紙1物件目録記載の製品を廃棄せよ。
- 被告は,原告に対し,510万円及びこれに対する平成28年3月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
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取消事由
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(1) 被告製品は,文言上本件発明1の技術的範囲に属するか(争点1)
ア 被告製品は構成要件1Aを充足するか(争点1-1)
イ 被告製品は構成要件1Bを充足するか(争点1-2)
ウ 被告製品は構成要件1Fを充足するか(争点1-3)
エ 被告製品は構成要件1Gを充足するか(争点1-4)
(2) 被告製品は,本件発明1と均等なものとしてその技術的範囲に属するか(争点2)
(3) 被告製品は,文言上本件発明26の技術的範囲に属するか(争点3)
ア 被告製品は構成要件26B,26C,26D及び26Fを充足するか(争点3-1)
イ 被告製品は構成要件26Eを充足するか(争点3-2)
ウ 被告製品は構成要件26Gを充足するか(争点3-3)
(4) 被告製品は,本件発明26と均等なものとしてその技術的範囲に属するか(争点4)
(5) 被告は,被告製品の輸入及び輸出をしているか(争点5)
(6) 原告の損害及びその額(争点6)
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裁判所の判断
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- 被告製品は,少なくとも,本件発明1の構成要件1F及び1Gを充足しないから,構成要件1A(争点1-1)及び構成要件1B(争点1-2)について検討するまでもなく,文言上,本件発明1の技術的範囲に含まれるものではない。
- 被告製品は,少なくとも均等の第3要件を充足しないから,本件発明1と均等なものとして,その技術的範囲に属するものとは認められない。
- 被告製品は,少なくとも,本件発明26の構成要件26D及び26Eを充足しないから,構成要件26B及び26C(争点2-1で判断しなかったところ)並びに構成要件26G(争点2-3)について検討するまでもなく,文言上,本件発明26の技術的範囲に含まれるものではない。
- 被告製品は,本件発明26と均等なものとして,その技術的範囲に属するものとは認められない。
- 以上によれば,その余の争点について検討するまでもなく,原告の本件請求はいずれも理由がないから,これらを棄却する。
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キーワード
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用語の意義(「ミシン目」、「横断して延在し」、)/構成要件充足性(1F、1G、26B、26C、26G)/均等論(第3要件)
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実務上役立つと思われる点を、以下の通り判決文より抜粋する。
上記記載を斟酌すると,構成要件1Fにいう「ミシン目は前記透明フィルムを横断して延在し」とは,「ミシン目」が,透明フィルムの短手方向左右にわたって一方の端から他方の端へと横切って延びていることを要するものと解される。
(イ) この点について,原告は,特許請求の範囲の記載は,ミシン目が一直線に横切ることを要するとはされていないとか,「ミシン目」の技術的意義からして,透明フィルムの外周縁のうちの一点から他点まで延在し,その線に沿って分離・分断を可能とすれば「横断」しているといえる旨主張する。
そこで検討するに,「ミシン目」が一直線でなく,例えば曲線状のミシン目であっても,それが透明フィルムを「横断して延在している」といえる限りは,構成要件1Fを充足すると解しても差支えないと解される。
特許請求の範囲の記載によれば,ミシン目は「透明フィルムを横断して延在し」なければならないところ,単に,一点から他点まで方向を問わずにミシン目が存在しているのみでは,「横断して延在」するというのに十分でないというほかはない。
また,一般に特許発明の技術的範囲は,明細書の発明の詳細な説明に開示された実施例の構成に限定されるものではないが,本件明細書等には,上記【図2】に示される実施例以外に,「ミシン目」が「透明フィルムを横断して延在」することにより,本件発明1の課題を解決できる場合を何ら開示していないのであるから,特許請求の範囲及び本件明細書等に接した当業者が,本件発明1の課題を解決できる構成として認識する「ミシン目は前記透明フィルムを横断して延在し」との構成は,上記のとおり,ミシン目が透明フィルムの短手方向左右にわたって一方の端から他方の端へと横切って延びていることを指すものと解するほかはない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
実務上役立つと思われる点を、以下の通り判決文より抜粋する。
均等の成立に第3要件を要するとする趣旨は,特許法の目的,社会正義,衡平の理念の観点からして,特許発明の実質的価値は,第三者が特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして容易に想到することができる技術に及び,第三者はこれを予期すべきものと解されることにある(ボールスプライン事件最判参照)。
そうすると,第3要件にいう「当業者」が「対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができた」とは,特許法29条2項所定の,公知の発明に基づいて「容易に発明をすることができた」という場合や第4要件の「当業者」が「容易に推考できた」という場合とは異なり,当業者であれば誰もが,特許請求の範囲に明記されているのと同じように,すなわち,実質的に同一なものと認識できる程度に容易であることを要するものと解すべきである(東京地裁平成3年(ワ)第10687号同10年10月7日判決・判時1657号122頁参照)。
これに対し,原告は,第3要件における「容易に想到することができた」という点について,「容易」「想到」という語が使用されている以上,特許法29条2項と同様の基準により判断されるべき旨主張する。しかしながら,発明の独占が認められるための特許要件たる進歩性の判断基準と,特許請求の範囲に開示された発明の技術的範囲を画する均等の判断基準とを同一にすべき実質的根拠はないというべきである。上記のとおり,特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして容易に想到できる技術であれば,第三者であっても特許発明の実質的価値が及ぶことを予期すべきといえ,特許請求の範囲が有する公示の要請にもとることはないといい得るが,特許請求の範囲に記載された構成から,特許法29条2項所定の「容易に発明をすることができた」構成にまで特許発明の実質的価値が及ぶとなれば,第三者は,特許発明の技術的範囲を容易には理解することができず,特許請求の範囲が有する公示の要請にもとる事態が生じかねないというべきである。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
判決文