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知財裁判例速報

平成29年(行ケ)第10190号 審決取消請求事件:印刷物

  • 2017/06/05
  • 知財裁判例速報

事件番号等

平成29年(行ケ)第10190号 審決取消請求事件

裁判年月日

平成29年5月30日

担当裁判所

知的財産高等裁判所(第4部)

権利種別

特許権(「印刷物」)

訴訟類型

行政訴訟(無効・不成立)

結果

請求棄却

趣旨

特許庁が無効2014-800211号事件について平成28年7月5日にした審決を取り消す。

取消事由

  1. 本件各発明の明確性要件に係る判断の誤り(取消事由1)
  2. 本件各発明のサポート要件に係る判断の誤り(取消事由2)
  3. 引用発明1に基づく本件発明1及び2の新規性に係る判断の誤り(取消事由3)
  4. 引用発明1に基づく本件各発明の進歩性に係る判断の誤り(取消事由4)
  5. 引用発明2に基づく本件各発明の進歩性に係る判断の誤り(取消事由5)
  6. 引用発明3に基づく本件各発明の進歩性に係る判断の誤り(取消事由6)

裁判所の判断

  • 原告の請求は理由がないから棄却する。

キーワード

新規性進歩性(引用発明の認定,相違点の認定,相違点の判断)/サポート要件/明確性



実務上役立つと思われる点を、以下の通り判決文より抜粋する。

   特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だけではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。


実務上役立つと思われる点を、以下の通り判決文より抜粋する。

   特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。


実務上役立つと思われる点を、以下の通り判決文より抜粋する。

   (3) 原告の主張について
 ア 原告は,本件明細書には,一過性の粘着剤を塗布する部分の具体例として,分離して使用するもの4と中央面部1の上部境界,下部境界,左側部(右側部)境界の各境界の内側近傍と外側近傍に接着剤を塗布したものしか記載されていないと主張する。

 しかし,発明の詳細な説明に記載された発明は,本件明細書の【発明を実施するための最良の形態】の項に記載された発明(【0014】【0015】【図1】)に限定されるものではない。そして,前記⑵のとおり,発明の詳細な説明の記載によれば,当業者が本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものは,本件明細書の【発明を実施するための最良の形態】の項に記載された発明にとどまらないことも明らかである。

 したがって,発明を実施するための最良の形態に記載された発明に限定して,本件発明1の範囲を解釈する原告の主張は,採用できない。
 イ 原告は,再現実験(甲13,14)をもとに,一過性の粘着剤が塗布される位置によっては,本件発明1の作用効果を奏しないと主張する。

 しかし,当業者であれば,本件発明1の発明特定事項及び本件明細書に記載された本件発明1の課題,解決手段,作用効果等から,中央面部(1),左側面部(2),右側面部(3)及び分離して使用するもの(4)の形状や材質,分離して使用するもの(4)の周囲の切り込みの程度,粘着剤の強度等を適宜調整し,粘着剤の塗布範囲を設定することができる。

 そして,再現実験のとおり,一過性の粘着剤が塗布される位置によっては,本件発明1の作用効果が奏さないことがあっても,切り込みの程度や粘着剤の強度を調整しても,なお本件発明1の作用効果を奏することはないとまではいうことはできない。

 したがって,一過性の粘着剤が塗布される位置によっては,本件発明1の作用効果が奏さないことがあるという再現実験をもって,本件発明1が,発明の詳細な説明の記載により当業者が課題を解決できると認識できる範囲のものではないということはできないから,原告の上記主張は採用できない。


実務上役立つと思われる点を、以下の通り判決文より抜粋する。

   (b) 原告は,引用発明3と甲9技術は,折り畳みはがきとして技術分野が共通し,用紙を折り畳んで重なり合う面を疑似接着させたものであるから作用機能も共通するなどと主張する。
 しかし,このような共通点は抽象的なものであって,前記aのとおり,両発明の構成,目的,作用効果が大きく相違することからすれば,かかる共通点をもって,引用発明3に甲9技術を組み合わせる動機付けがあるということはできない。

 

判決文