事件番号等 |
平成28年(行ケ)第10114号 審決取消請求事件 |
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裁判年月日 |
平成29年5月10日 |
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担当裁判所 |
知的財産高等裁判所(第1部) |
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権利種別 |
特許権(「揺動型遊星歯車装置」) |
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訴訟類型 |
行政訴訟:審決(無効・成立) |
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結果 |
請求棄却 |
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趣旨 |
特許庁が無効2012-800135号事件について平成28年4月5日にした審決を取り消す。 |
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取消事由 |
1 取消事由1(分割要件に関する判断の誤り) 2 取消事由2(手続違背) |
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裁判所の判断 |
・原告主張の取消事由はいずれも理由がないから,原告の請求を棄却する |
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キーワード |
分割出願/手続違背/新たな技術的事項の導入 |
実務上役立つと思われる点を、以下の通り判決文より抜粋する。
本件原出願当初明細書に記載された技術的課題のうち,前記②に関しては,偏心体軸が円周方向において非等間隔に配置されることにより生じるものであり,内歯揺動体が外歯歯車の周りで円滑に揺動駆動することにより解決されるものであるから,課題を解決する手段として,外歯歯車とその周りで揺動する内歯歯車を備えること,すなわち内歯揺動型遊星歯車装置であることが,本件原出願当初明細書に記載された発明の前提であるといえる。
なお,外歯揺動型遊星歯車装置では,揺動体は,その外周面に外歯が設けられるものであることから必然的にその外形は円形とならざるを得ないものであり,偏心体軸を非等間隔にしても揺動体の外周の形状は円形のままで変わらず,装置全体の形状や他の軸の配置等には何ら影響を及ぼすものではないから,偏心体軸を非等間隔とする技術的意義はない(本件原出願当初明細書に記載された課題は,偏心体軸を非等間隔に配置することにも技術的意義を有する内歯揺動型遊星歯車装置に特有のものであり,外歯揺動型遊星歯車装置においてはそもそも課題とならないものである。)。
このように,本件原出願当初明細書の全体の記載からすると,同明細書に開示された技術は,従来の内歯揺動型遊星歯車装置における問題を解決すべく改良を加えたものであって,その対象は内歯揺動型遊星歯車に関するものであると解するのが相当であり,外歯揺動型遊星歯車装置を含むように一般化された共通の技術的事項を導くことは困難であるといわざるを得ない。
また,本件原出願当初明細書の特許請求の範囲,発明の詳細な説明(実施例を含む。)及び図面には,外歯歯車118を出力軸とする内歯揺動型遊星歯車装置のみが記載され,内歯揺動型遊星歯車装置について終始説明されているのに対し,本件原出願当初明細書に記載された技術が,揺動体の形態に関わらない共通技術であること,外歯揺動型遊星歯車装置に適用することが可能であることやその際の具体的な実施形態,その他の周知技術の適用が可能であること等についての記載や示唆は全くないのであるから,本件原出願当初明細書の記載に接した当業者であっても,同明細書に記載された発明の技術的課題及び解決方法の趣旨に照らし,内歯揺動型遊星歯車装置と外歯揺動型遊星歯車装置に共通した課題及びその解決方法が開示されていると認識するものではないと解される。
実務上役立つと思われる点を、以下の通り判決文より抜粋する。
特許法153条2項は,審判において当事者が申し立てない理由について審理したときは,審判長は,その審理の結果を当事者に通知し,相当の期間を指定して,意見を申し立てる機会を与えなければならないと規定している。
これは,当事者の知らない間に不利な資料が集められて,何ら弁明の機会も与えられないうちに心証が形成されるという不利益から当事者を救済するための手続を定めたものであると解される。
このような特許法153条2項の趣旨に照らすと,審判長が当事者に対し意見を申し立てる機会を与えなければならない「当事者が申し立てない理由」とは,新たな無効理由の根拠法条の追加,主要事実の差し替えや追加等,不利な結論を受ける当事者にとって不意打ちとなり予め告知を受けて意見を述べる機会を与えなければ手続上著しく不公平となるような重大な理由がある場合のことを指し,当事者が本来熟知している周知技術の指摘や間接事実及び補助事実の追加等の軽微な理由はこれに含まれないと解される。
判決文