事件番号等 |
平成27年(行ケ)第10252号 審決取消請求事件 |
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裁判年月日 |
平成29年3月27日 |
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担当裁判所 |
知的財産高等裁判所(第3部) |
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権利種別 |
特許権(「浄化槽保護用コンクリート体の構築方法」) |
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訴訟類型 |
行政訴訟:審決(無効・不成立) |
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結果 |
請求棄却 |
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趣旨 |
特許庁が無効2014-800066号事件について平成27年11月16日にした審決を取り消す。 |
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取消事由 |
(1) 被告が本件発明の発明者であるとした認定判断の誤り(取消事由1) (2) 本件発明1と甲3発明の相違点に関する認定判断の誤り(取消事由2) |
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裁判所の判断 |
・本件発明の発明者はMではなく,被告であるとした本件審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由1には理由がない。 ・本件審決が,本件発明1と甲3発明との相違点として,相違点2及び3を認定したことに誤りはなく,原告主張の取消事由2には理由がない。 ・以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却する。 |
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キーワード |
進歩性(発明の要旨認定)/冒認出願/共同出願違反 |
実務上役立つと思われる点を、以下の通り判決文より抜粋する。
本件のように,冒認出願(平成23年法律第63号による改正前の特許法123条1項6号)を理由として請求された特許無効審判において,「特許出願がその特許に係る発明の発明者又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたこと」についての主張立証責任は,特許権者が負担するものと解するのが相当である。
もっとも,そのような解釈を採ることが,全ての事案において,特許権者が発明の経緯等を個別的,具体的,かつ詳細に主張立証しなければならないことを意味するものではない。むしろ,先に出願したという事実は,出願人が発明者又は発明者から特許を受ける権利を承継した者であるとの事実を推認させる上でそれなりに意味のある事実であることをも考え合わせると,特許権者の行うべき主張立証の内容,程度は,冒認出願を疑わせる具体的な事情の内容及び無効審判請求人の主張立証活動の内容,程度がどのようなものかによって左右されるものというべきである。すなわち,仮に無効審判請求人が冒認を疑わせる具体的な事情を何ら指摘することなく,かつ,その裏付けとなる証拠を提出していないような場合は,特許権者が行う主張立証の程度は比較的簡易なもので足りるのに対し,無効審判請求人が冒認を裏付ける事情を具体的に指摘し,その裏付けとなる証拠を提出するような場合は,特許権者において,これを凌ぐ主張立証をしない限り,主張立証責任が尽くされたと判断されることはないものと考えられる。
以上を踏まえ,本件における取消事由1(発明者の認定の誤り)の成否を判断するに当たっては,特許権者である被告において,自らが本件発明の発明者であることの主張立証責任を負うものであることを前提としつつ,まずは,冒認を主張する原告が,どの程度それを疑わせる事情(本件では,被告ではなく,Mが本件発明の発明者であることを示す事情)を具体的に主張し,かつ,これを裏付ける証拠を提出しているかを検討し,その結果を踏まえて,被告が発明者であると認めることができるか否かを検討することとする。
実務上役立つと思われる点を、以下の通り判決文より抜粋する。
原告は,本件審決が,本件発明1と甲3発明との相違点として,相違点2及び3を認定した上で,これらの相違点に係る本件発明1の構成は当業者が容易に想到し得たことではないと判断したことについて,土木工事に関する常識等に鑑みれば,相違点2及び3に係る本件発明1の構成は,本件請求項1の文言どおりではなく,甲3発明における構成と同一のものであると認められるから,本件発明1と甲3発明との間に上記相違点2及び3は存在せず,本件審決の相違点の認定は誤りである旨を主張する。
しかしながら,本件請求項1の構成Cに係る記載によれば,本件発明1において,最初の地盤の掘削の範囲が,「保護用コンクリート体の最下段のコンクリート板の高さと同じ深さに且つ保護用コンクリート体の長さ及び幅と同じ長さ及び幅」であることは一義的に明らかであるから,本件発明1が本件審決の認定どおりの相違点2に係る構成を有することは明らかである。
また,本件請求項1の構成EないしHに係る記載によれば,本件発明1において,必要深さに応じて繰り返す工程が,掘削とコンクリート板の落とし込みとコンクリート板の建て込みの順番であることは一義的に明らかであるから,本件発明1が本件審決の認定どおりの相違点3に係る構成を有することも明らかである。
してみると,原告の上記主張は,本件特許の特許請求の範囲の記載から一義的に明らかな構成について,それが土木工事に関する常識等に反することを根拠に,当該記載とは異なる構成のものとして認定されるべき旨を主張するものといえる。しかし,特許発明の要旨認定が願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきことは当然であるから,原告の上記主張は,特許発明の要旨認定に係る原則を無視するものであって,根拠のない独自の主張というほかはない。
判決文