事件番号等 |
平成28年(行ケ)第10207号 審決取消請求事件 |
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裁判年月日 |
平成29年3月28日 |
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担当裁判所 |
知的財産高等裁判所(第4部) |
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権利種別 |
特許権(「耳かけダイナミックバランスドスマホ,PC」) |
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訴訟類型 |
行政訴訟:審決(拒絶) |
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結果 |
請求棄却 |
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趣旨 |
特許庁が不服2015-2721号事件について平成28年7月25日にした審決を取り消す。 |
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取消事由 |
(1) 明確性要件に係る判断の誤り(取消事由1) (2) 容易想到性に係る判断の誤り(取消事由2) |
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裁判所の判断 |
・本件審決における明確性要件に係る判断に誤りはない。よって,取消事由1は理由がない。 ・本願発明は,引用発明において,引用例2に記載された技術事項を適用し,当業者が容易に発明をすることができたものである。よって,取消事由2は理由がない。 ・以上によれば,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却する。 |
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キーワード |
進歩性(相違点の判断)/明確性(用語の意義「ダイナミックバランサー」、「ダイナミックバランスド」) |
実務上役立つと思われる点を、以下の通り判決文より抜粋する。
ア 前記(2)及び(3)のとおり,特許請求の範囲には,耳より後ろの錘W1と前方のディスプレイ又はカメラの重さW2とを,「つる」の「耳に当たる位置」を支点として天秤機能をさせ,ディスプレイ・カメラ部と「つる」の耳の後方に配置したバッテリー部とにより,W1とW2のバランスをとることと,耳より後ろの錘W1を「ダイナミックバランサー」とすることや本願発明が「ダイナミックバランスドスマホ,PC」であることとの関係を示す記載がなく,また,本願明細書にも,耳より後ろの錘W1を「ダイナミックバランサー」とすることや本願発明が「ダイナミックバランスドスマホ,PC」であることの技術的意義を明らかにする記載がない。
したがって,ダイナミックバランスが,運動状態にある物体について,その運動状態によって発生している力をも考慮した釣合いを意味するとの技術常識を踏まえた当業者において,耳より後ろの錘W1を「ダイナミックバランサー」とすることや本願発明が「ダイナミックバランスドスマホ,PC」であることの技術的意義を明確に理解することはできず,第三者の利益が不当に害されるといわざるを得ない。よって,本願発明が明確であるということはできない。
イ また,仮に,本願明細書の「天秤の原理で顔が動いてもダイナミックバランス即ち動的にも水平になる。」との記載(【0009】)を,耳より後ろのバッテリー11の重さや電子回路12の重さW1と,前方のディスプレイ16やカメラ18の重量W2とを,「つる」の13を支点として,バランス(釣合い)をとるようにし,天秤の原理でディスプレイ16やカメラ18が,装着者の顔が動いても水平になることを「ダイナミックバランス」や「動的」と表現したものと理解しても,上記は,一般に「スタティックバランス」や「静的」と表現されるものであって,「ダイナミックバランス」や「動的」との用語の有する技術的な意味とは明らかに異なるものである。したがって,本願明細書に上記記載があるからといって,かかる記載のみから,特許請求の範囲に記載された「ダイナミックバランサー」や「ダイナミックバランスド」が,技術用語として一般に理解される意味とは異なり,「スタティックバランスをとるもの」や「スタティックバランスがとれている」という意味で用いられていると一義的に理解することはできないものといわざるを得ない。
判決文